ピリオド 終編-11
「さ、乾杯しよう」
「意味が分かりませんよ義兄さん。今日は話し合いに……」
問い質そうとするオレを、竹内は右手で制す。
「先日、君から受けた連絡でオレの肚も決まったよ」
真剣な表情。
「…亜紀とは、離婚する」
「えっ?」
一瞬、耳を疑った。
先日まで、何とか“夫婦であろうと模索していた”のが、こうも簡単に趣旨変えするとは信じ難かった。
「ちょっと、待って下さいよッ!」
「どうしたんだ?」
実直な竹内の目。こんなの、オレは納得出来ない。
「先日までの話じゃ、義兄さんは諦めきれないと云ってたじゃないですか!それが、ほんの数週間で……」
「声がデカイよ」
人差し指を口元に当てる竹内。興奮してつい、声を荒げてしまったが、コイツは何で冷静でいられるんだ?
──これで夫婦が終わるんだぞ!
ホステス逹の視線が、一斉に集中した。
「す…すいません」
「まあ、いいさ」
店内に落ち着きが戻る。竹内の目にも柔らかさが戻った。
「和哉君…」
「何です?」
竹内は自らのグラスを一気にあおると、小さくため息を吐いた。
「確かにオレは、アイツとヨリを戻したいと思っていた。
でもな、先日、君からアイツの胸の内を聞かされた時、もう、これ以上は無理だと分かったんだ」
苦しさを滲ませる。
「これ以上、引き延ばしても何も変わりゃしない」
「義兄さん…」
「だから、郵送でもいい。離婚届けを自宅に送ってくれ」
そう云うと竹内は、パーンと勢いよく手を鳴らした。
「これで話は終わった!さあ、飲もう」
竹内は一転、破顔しそうなほど顔をほころばせた。
「和哉君、今日はオレの葬式だ!」
「えっ?葬式」
「そう。アイツとの離婚を決意した日だ。付き合ってくれ」
そう云うと、2杯目のグラスをあおった。
それから2時間あまり経った。竹内は、最初のペースのままウイスキーをあおっている。
(ついて行けないな…)
さすがにオレは合わせられない。竹内が酔いつぶれた場面を考てしまい、飲む量も自然と抑えてしまう。
──これで終わりなのか?
呆気無い幕切れ。
この3ヶ月もの間、ずっと、この日のために悩み、奔走してきた。
しかし、いざそれを迎えると、何とも拍子抜けしたような気持ちになった。