『屋上の青、コンクリートの灰』-5
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙が凄く重い。
気まずくて、いたたまれなくて、居場所がなくなった気分だ。
でも僕はべつに、モンちゃんとCDショップに行くだけなのに。なんでこんな思いをしなくちゃいけないんだ。
石井はたまにこんなことがある。モンちゃんの話を出すと、いつもすぐに不機嫌になる。
モンちゃんは凄くいい奴なのに。それにもし石井自身がモンちゃんを気に入らないとしても、僕がモンちゃんと遊ぶ分には関係ないじゃないか。子供かおまえは。
だんだんと、急に突き放された心細さがわだかまる怒りになってきた。
そして石井の一言が、僕の怒りにとどめを打った。
「越智」
さっきこう呼ばれた時とは違って、怒気を孕んだ声が沈黙を破る。
「おまえ帰れ」
石井なんか石井なんか石井なんか大嫌いだ。
勝手だ。わがままだ。それになにを考えてるんだかわからないあんな奴。
とにかくやっぱり大っ嫌いだ。
薄暗くなった外を歩きながら、僕は明日絶対石井と喋らないと決意した。
朝の教室は騒がしい。先生が来るまでの少しの間、僕らはそれぞれ好き勝手に喋ってはくつろいでいる。
教室に入るなり後ろのロッカー付近に石井たちを発見して、僕はそこを避けるようにモンちゃんたちの所に歩を進めた。
「おはよ」
「うぃー…す」
気だるそうにあくびをしながら答えたのは早坂だ。
朝からまったくのやる気がない。家も近い徒歩通のくせにこいつはいつも眠そうだ。
その早坂に比べて、清々しいほど気持ちのいい笑顔を向けてくれるのはモンちゃんだ。
「おう、朝陽。今日も相変わらずちっちぇなぁ」
「モンちゃんがでかいんだよ。俺は成長期だからこれから」
「俺だってそうだろ。てかみんなおんなじだ環境は。違うのは朝陽の育ちだな」
ハハハ、と笑う。こんなことを言っても全然ムカつかないのは、モンちゃんが冗談で言ってるのが分かるせいだと思う。
石井みたいな意地悪さがまったく感じられない。
石井みたいにわがままでも勝手でも、家に呼んだ俺に向かって帰れなんて言ったりもしない。
とにかく僕は、今日は一日中石井にケチをつけたい気分だった。今日の僕は石井のケチをつけることに関しては、『どこからでもかかってこい』な臨戦態勢に入っている。