尽きることの無い愛-1
◇尽きることの無い愛
あの日のことはうっすらとしか記憶に残っていない。
でもあの瞬間だけは鮮明に覚えている。
「1499番 入ります」
僕は重たい鉄の扉を開け、中で待つ初老の男性の前に立つ。
「おめでとう。仮出所の日取りが決まった」
僕はその男性の大きな机の下に潜り、ズボンのジッパーを下ろし年齢にそぐわないほどの力でそそり立つペニスを口に含んだ。
僕は今少年院で生活している。
この半年間は本当に地獄だった。
でも違う意味では天国だったとも思う。
あのコンテストが終って数日後、いつものように蒼介と逢瀬を楽しんでいた。
秋も深まり、銀杏の黄色い絨毯を二人で手を取って踏みしめていた。
不意に蒼介の足が止まり、僕は振り返る。
さっきまでの柔らかい表情が緊迫した雰囲気に変わり、じっと僕の後ろを凝視している。
前を向くとどこには全身黒ずくめの人が立っていて、手にはナイフを持っていた。
その人は僕を突き飛ばして蒼介の胸の中に飛び込んだ。
何かわけのわからないことを叫んでいたが、声のトーンからすると女性のようだ。
女性が離れると蒼介の胸の中央に銀色に光るナイフが刺さり、柄の方へ血が伝っているのが見えた。
点々と地面の銀杏の黄色に真っ赤な色が増えていく。
がくっと蒼介の体が落ちる。
それはまるでスローモーションのようにゆっくりと見えた。
僕は崩れ落ちる蒼介に駆け寄ったはずなのに、全く距離が縮まらない。
でも実際はちゃんと蒼介を受け止めて、一緒に倒れこんでいた。
「あはははははは!!!やったわ!!!!やってやったわ!!!!」
後ろでは女が馬鹿笑いしていた。
通りすがる人々が徐々にその状況を把握し始めたのか、次第にパニックになって騒いでいる。
でも僕の耳には蒼介の荒い息遣いしか聞こえない。
「み、みさき・・・」
「蒼介さん!!!!蒼介さん!!!!」
蒼介は自分でナイフを引き抜き、一気に血があふれ出して顔がどんどん青白くなっていく。
僕はどくどくと血が流れ続ける胸を手のひらで押さえながら、蒼介の頭を膝に乗せた。
「実沙希・・・」
「しゃべらないで蒼介さん!誰か!誰か救急車を呼んでください!」
「もっと・・・かお・・を・・・」
「しゃべっちゃダメだよぉ!お願い・・・」
「もっと顔を見せて・・・・」
血だらけの震える右手が僕の頬に当てられる。