『踏切の幻』-9
「ボクとスグルはトモダチ……………もう、独りじゃないね」
畳まれた折り鶴をもとの姿に戻すと、彼の声が蘇って、目の奥が熱くなる。
また独りだよ、サキト。僕はまた独りになったよ……………。
涙が折り鶴の羽根を濡らした時、紙が透けて、その鶴の裏に何かが書いてあるのに気が付いた。
はっとした僕は、夢中で鶴を崩して広げる。
『苦しくて、ボクもつらいよ。
どうしよもなく哀しくて、消えたくなる。
キミも、ボクの中にいるよ。
キミが消えたい時も、ボクがいるよ。
いつでもキミの中にいるよ。
ずっとずっと、一緒に生きよう』
もう、涙が止まらなくなった。
彼は此処にはいなくても、僕の中にいる……………死ぬ事の永遠。
それは、触れないと云う優しさ。未来永劫変わる事のない暖かさ。
ねえ、君は、それを僕にくれたの……………?
蝉時雨が響いている。……………でも、もう五月蠅くない。
哀しくて仕方がないけど、すごく暖かいモノを感じていた。
君に出逢えたから、僕は独りじゃないよ。
君の言葉で、指先で……………僕はすごく暖まった。
伝えられなかった言葉が沢山あって、君が欠けてしまったけれど、それでも心は暖かいままなんだ。
でも、君が消えてしまったのは本当だから。
だから、すぐ泣きやむから、もう少しだけ泣かせて?
溢れてくる涙を震える手で拭い、僕は西の空を見上げた。
沈んでいく夕陽が、折り鶴と想い出をオレンジ色に染めた。
「サキト……………」
震える声で、追いすがるように彼の名を呼ぶ。
彼の返事は返ってこない。
もう届かないとしても……………それでもこれだけは云っておきたかったんだ。
「ありがとう……………」
−FIN−