慈愛に満ちた俺と愛しさをくれる僕-1
(駿!まてよーはやいぞ!)
(あははは、こっちだよ大!つかまえてみろ!)
なんだ?子供達がおいかけっこしてる。
ああ・・・これ、ガキの頃の俺達か。2人ともまだ幼いな。
俺は・・・小さい頃からぱっとしない見た目だ。
大も、まだ子供の顔立ちだ。この頃は可愛かったんだなぁ。
今はあんなにイケメンになっちまって、どうして俺だけ顔が変わらなかったんだろう。
(はあ、はあ、はあ。またつかまえられなかったぁ・・・駿は本当にはやいよな)
(そうさ。おれはチーターよりもはやいんだぜ!)
(あきらめないぞ。おれ、いつかかならず、駿をつかまえてやるからな!)
(むりだよむり!あはははは)
懐かしいな。よくこうして野原を駆け回って遊んでた。
あの頃に戻りたい。今は、とにかく辛すぎるから・・・
「だぁーうるさいんだよ!大人しくしてろ!」
けたたましく喚く目覚まし時計を止めて、頭から毛布を被った。
せめて楽しい夢の世界に浸っていたかったのに、空気を読めないんだから。
今日は学校なんて行きたくない。
自分のみじめさを思い知らされるだけだ。
なんでこんな日が出来た、俺みたいな男を苦しめる様な日をどうして?!
いいよなぁ、大は。こんな悩み、いや苦しみなんて無縁なんだからな。
大のルックスは見た人に幸せを与えるんだ。
女の子のみならず、クラスメイトの男ですら魅了してしまうくらいのイケメン。
しかも、本人はそれを全然鼻に掛けず、誰に対しても別け隔てなく接する、心までイケメンの完璧な存在だった。
幼稚園からずっと一緒だったけど、大の周りにはいつも人が集まっていた。
中学に上がり、成長期に入って大の顔がイケメンの頭角を表し始めてからは、女の子達が群がる様になった。
それを遠くから見ているのがなんだか悔しくて、次第に大と話さなくなってしまったんだ。
そんな冷たい俺にも大は変わらず優しくしてくれたが、素直になれなかった。
高校も一緒になった時は憎悪すら感じた程だ。
今では幼なじみという言葉を世界で一番嫌いになるくらい、俺はひねくれてしまった。
「駿!いい加減起きなさい、学校でしょ!」
母さんが怒鳴るのも無視してふて寝を決め込む。
今日は、俺みたいな男にとっちゃ外に出るだけでも死にたくなるんだ。分かってくれ母さん。
分からなくてもいい、いつか理解してくれたら。
「いい加減にしなさい!大くんが来てるのよ!」
なに・・・?
なぜ、あいつが?!
いやだ、来るな。俺を踏み切りに飛び込ませたいのか。答えろ!
階段を上がる音がする。
間違いない、あいつだ。この軽い足音。