慈愛に満ちた俺と愛しさをくれる僕-2
「駿、大丈夫か」
ドアの向こうから甘い音色が響いた。
声までイケメンなんだから、俺がかなうものなんてもう何一つ無い。
足が速いからってなんになる。逃げ足の速さが自慢になるのは、泥棒くらいだぜ。
「入るぞ」
やめろっ、来るな。お前の顔なんか見たくもない・・・
自分の造りの悪い顔がますます恨めしくなる。やめろ、俺を苦しめるな。
ドアが開いて、毛布の近くに気配が座った。
「具合が悪いのか。ちょっと熱を測ろう」
「・・・・・・」
「大丈夫だ、すぐ終わる。さあ顔を出してくれ」
こんなに優しいのに、俺は大を嫌いになってしまった。
俺はクズだ、いつも女の子に囲まれてる親友を妬むなんて、クズじゃないならなんなんだ。ゴミか?
「駿・・・」
「・・・・・・」
仕方ない、ちょっと話をするくらいなら・・・
そう思って毛布を捲り、視界に入った大の姿を見て思い切り噴き出した。
「うっうわっ「静かにするんだ。熱があがるぞ」
叫ぼうとした口を塞いだ手が濡れている。あ、汗か?
もしかしてこいつ、興奮してるのか。何故、いやそもそもどうしてパンツすらはいてない?!
「お前まさか、うちにもその格好で来たのか?!」
「おばさんがびっくりしてたな。はっはっはっ」
「マジかよ?!」
「そんなはずないだろ。いくら隣同士とはいえ、階段を上がるまでは着てたよ」
この状況でさらりと冗談を言えるとは、悔しいがイケメンだな。
「お前、どうして学校に行きたくないんだ。今日はバレンタインだぞ」
「・・・俺みたいな男にとっちゃ辛い日なんだよ。お前には分からないだろうが」
すると、大が急に真面目な顔になった。
「そうか、最近ずっと落ち込んでたのは、お前がこの日が来るのを嫌がってたからだな」
「や・・・やめろ、なんで毛布を剥ぎ取る?っていうか、ぬっ脱がすな!!この変態め!!」
更に、俺に跨ってジャージを剥ぎ取ろうとしてくる。
「俺は無力だ、苦しむ駿を救えないなんて、どうしようもないちっぽけな存在なんだ!」
「や、やめろぉ・・・裸は寒いぞこの時期じゃ」
「俺にはお前しかいない。だから、そんな悲しい顔は見たくない。笑ってくれ駿、お前は俺の太陽なんだ」
「助けて母さん、親友に脱がされてる。やめて・・・見ないで大、そんな立派なものじゃ・・・」
瞬く間に俺は大とお揃いの姿にされてしまった。
バレンタインだってのに一体なぜ、互いに素っ裸で部屋の中にいるんだ?
「もう女の子なんて信じられない」
「な、なにを言いだすんだ」
俺に跨りながら呟く大の眼はぞっとする程冷たかった。
一体どうしてだ。いつもあんな楽しそうにしてたじゃないか。