『最後の夜』-2
―‐綺麗な兄貴。10年間もずっとみ続けてきたんだ。兄貴だけを。
兄貴の事なら何でも知ってる。
兄貴の嫌がる事も。
喜ぶ事も。
全部…
俺の方がずっとずっと、耀子さんなんかより幸せにしてあげられるから…
だから俺だけを見て…
けれど、すぐに否定する。男なんかと一緒になって幸せになれるわけがない。当たり前過ぎて、胸が締め付けられてしまう。
「兄貴…好きだよ。」
勿論、起きる訳がない。俺は兄貴の寝顔をずっと見つめる。
―‐これが最後。もう兄貴はいなくなるんだ。
今日だけだから…もう一度兄貴の唇に、そっと自分のそれを重ねる。
今度こそ想いを込めて…重ねるだけのキスだけれど。
長いキスの後、俺は立ち上がると部屋の扉に手をかける。すると、
「…晃。」
兄貴が自分を呼ぶ声。思わず俺はドアノブに手をかけたまま固まってしまった。寝ていると思ったのに…。けれど兄貴は言葉を続ける。
「耀子…ちょっとお前に似てるんだ。…一生大事にする。幸せにする。」
その言葉に堪らず俺は部屋の外に飛び出し、ドアを閉めると寄りかかるようにズルズルと座り込んだ。
(俺に似てるんだ…)
良く分からないけれど、気付けば涙が頬を伝っていた。
(一生側に居て、大事にするんだ…)
悲しいのにどこか満たされたような、何だか複雑な気持ち。涙は本格的に、とめどなく次から次へと溢れ出す。
(良く分からないけど、今は泣きたいから泣いとこう)
胸が苦しくて、息がうまく出来ない。俺は膝に顔を埋め、しばらく泣いた。泣きながら、頭の片隅でこう考える。
―‐どうか、幸せに。
幸せになってなって下さい。俺が「良かった」と言えるぐらい幸せに。
明日は兄貴の結婚式。
明日は2人の幸せを、心の底から願おう。それが俺の、最初で最後の愛の形だから―‐