月夜と狼-2
「高遠ぉー」
やべ。
後ろから橘咲夜が走ってきた。
幼なじみ、というかお隣さん。
「待ちなさいよ!」
悪いヤツじゃないけど、今日は避けたい。
走って逃げた。
行き先が同じだけど。
さすがに引き離したけど、教室でとっつかまった。当たり前か。同じクラスだし。
「ばかたれ!これ、いらないの?おばさんから預かったんだけど!」
「あっ」
俺は咲夜の手から垂れたカギを見てズボンのポケットを探った。
「ここにあるんだからポケットにあるわきゃないでしょ」
咲夜がキーホルダーを揺らすと鈴がチリチリと鳴った。
そうだった。
今日は母さんが出かけちまうからカギ持ってでなくちゃいけなかったんだ。
待ってれば父さんが帰ってくるけど、7時前だろうし、冬だし。
「お、サンキュ」
カギを受け取ってポケットにしまう。
「落とさないようにしなさいよ」
「ウス…」
む、ここはしょうがないか。
おとなしく肯く。
「夫婦げんかは終わったか」
中島、いらんこと言うな。
「違うわ!るさい、中島。俺はこんなの好みじゃねえの」
「人がせっかく届けてやったのに、『こんなの』ですって?この、この、ばっかたれ」
咲夜は俺の足をぐりっと踏んでから席に戻っていった。
「いってぇー!このバカサク!なにしやがんだ」
俺は咲夜に向かって叫んだが、完全無視。
は。そうですか!
イスを引き出し、勢いよく座った。
「おー、こわこわ」
中島が笑う。
周りのヤツらもなにやら笑ってるし。
だから、やなんだよ。
このパターンはよ。言い出すことはわかってんだ。
どうしてそうなるんだ?
『え?お前らつきあってんだろ?仲良さそうだし』
この台詞、何度聞いたことか。
これのどこが仲が良さそうなんだ。
違います。俺好きな子いるもんね。間違っても凶暴な咲夜じゃない。
3組の川村裕美だもん。