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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(4)-5

川の清流はとても綺麗で、そのまま手で掬って飲めそうな程の透明感だった。靴を脱いでくるぶし辺りまでの水辺に浸かる。冷たい。何もかもが火照った街では体験出来ない、贅沢な冷たさだった。キラキラと光る水面に反射した光が彼女の顔を明るく照らして、僕おもわず息を飲んだ。
「つめた!」
「気をつけて、中には尖った石も混じってるみたいだから」
「あ、ありがとうございます。あっ!先輩見て下さい!魚が泳いでいます!」
「本当だ。きっと彼らも、驚いてるだろうね」
「え?なんでですか?」
「急に人がたくさん来たからさ」
「あぁ、なるほど」
「おーい、バーベキュー始めるぞぉ!」
遠くで木村さんの声がして、わらわらと男性陣がバーベキューセットを組みだした。僕もそれにならい簡単な作りの机を組み立て、その上にさまざまな種類のお酒を並べていった。他にも駄菓子につまみ、切った野菜やお肉なんかを軽くクーラーボックスから取り出す。
「おし、準備はここらでいいだろう。では!今から!天文サークル伝統の、夏季キャンプバーベキュー大会を開催しまぁす!!」




食欲がそこそこ満足されると、次に取りかかるのは性欲。その事実は多くの生物の共通要項として存在しているようで、それは人間も同じと言えた。あちらこちらでアピールタイムが始まり、男女が楽しそうに大声を上げて笑っていた。
僕は(どこから持ってきたのか)ビーチパラソルの下で横たわる、千明の介抱をしていた。ときおり、うぅとか、あぁとか言ったうめき声をあげ、その顔は真っ青に血の気が引いていた。
「大丈夫?」
「ちょっとキツいかも」
「なんか食べる?」
「今食べたら、瞬時に全部吐ける自信あるで」
「なんか飲む?」
「ん。水ちょうだい」
ヨロヨロと身体を起こそうとする千明に手をかし、僕は水の入ったコップを手渡した。
「はぁー、おいしいわぁ」
「無理矢理飲まされるお酒より、よっぽどおいしい?」
「ははっ、それ新歓ときの私の台詞やん?」
水を飲み終えると少し回復したのか、千明は笑った。僕はその笑顔をみて、心に痛みが走るのに気がついた。それがどこから来て、どこに向かおうとしているのかもわからないけれど、確かに痛みはそこにあった。
「もうちょっと寝ときなよ?晩ご飯の時に起こしてあげるから」
「んー、ここまで来て遊べへんのは悔しいけど、そうさせてもらうわぁ。ちーくん、ごめんなぁ?」
「千明が謝ることない。僕だってあの山道は想定外だったさ」
「ん。ありがと。じゃあちょっと寝る。でさ?お願いがあるんやけど?」
「なに?」
「私が寝るまで、側におって欲しい」
「約束しよう」
約束通り、僕は千明が寝息をたてるまでジッとその顔を見ていた。痛みが引かない。それどころかじわじわとその勢力が大きくなっているのがわかる。一体これはなんなのだろう。まるで僕の知らない場所でそれは行われている様な気がする。けれど痛みの中心は、確かに僕の心の真ん中にある。最近の僕にはわからないことだらけだった。

千明が眠りにつくと、僕はポケットからマルボロメンソールの箱を取り出し、煙草を一本取り出した。というより、一本しか無かった。僕は軽く舌打ちをし、空になった空き箱を握りつぶした。最後の一本だ。今日は泊まりだから、最悪明日の朝まで吸えないことになる。うかつだったな、と僕は心の中で自分を責めた。舞い上がっていたのかも知れない。煙草の予備を忘れるなんて。
「先輩、煙草吸われるんですね?」
桜井さんからそう声がかかった時は、その最後の一本に火をつけようとした瞬間だった。僕はびっくりして、危うく大きく吸い込みそうになったのだけれど(僕はまだ初心者喫煙者なので、最初から大きく肺に入れてしまうとむせてしまう)、すんでの所でそれを阻止する事に成功し、平静を装った。まるで平静では無かったけれど。


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