投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『雪兎-YukiUsagi-』
【ボーイズ 恋愛小説】

『雪兎-YukiUsagi-』の最初へ 『雪兎-YukiUsagi-』 4 『雪兎-YukiUsagi-』 6 『雪兎-YukiUsagi-』の最後へ

『雪兎-YukiUsagi-』-5

「……………あ………」

 そして塀の上にあった筈の雪兎が目に留まる。
 近付いて見てみると、それはもう日光に溶かされていた。
 小さい雪の破片と、目と耳の部分が残っている。

 お前……………なのか?ユキト……………?

 原型を崩した雪兎の目が、寂しげに何処か遠くを眺めていた。


『ボク、太陽が昇るとダメなんだ。今じゃなきゃダメなんだ。今夜じゃなきゃダメなんだ』


 胸の奥でユキトの言葉が蘇った。
 ……………夢じゃない。確かにアイツはいたんだ。
 よく判らない奴だったけど、でも存在してたんだ。

 ……………何処だよ、ユキト。


『クロと逢う為に、ボクはあそこにいたんだね……………』


 また蘇る声。
 まるでこの雪兎が、そのままユキトだったみたいに。

 イヤ……………ユキトはやっぱりコレだったんだ。
 白くて、綺麗で儚くて、俺を外へと誘ってた。
 それで今、俺の目の前で溶けて無くなってく、雪兎……………。

 今更になって色々気付いた。
 なんで云ってやれなかったんだ。
 俺もアイツに、大事なモノを貰ったのに……………。
 「大好きだ」って、なんで俺からも云ってやれなかったんだ?

「好きだ………ユキト。ユキト、好きだ。ユキト……………」
 震える指先が溶けていく雪兎に触れた。
 

『クロが大好きだよ』


 昨日の声と笑顔だけ、俺の中で鮮やかに蘇る。


『ずっと好きだよ。すごく好き……………』


 何度も蘇る。
 でも、ユキトの姿だけは此処にない。

「ユキトッ……………ユキトッッ!!!!」
 クロはその場に項垂れた。
 呼ぶ声に答える相手なんかとうにいなくなってる。判ってる。
 でも、叫んだ。
 叫ばずにはいられなかった。

 まだ俺も誰かを喜ばせるんだって教えてくれた。
 そんなユキトが愛しかった。
 純粋で単純で、ただ愛しかったんだ……………。


『クロは、色々大事なモノできた?』


 遅すぎる……………けど、今更答えていいか?
 俺は、ユキトが…………………………。


 俺はユキトを造っていた紅い木の実と緑の葉を使い、溶けない雪兎を作った。
 砂糖の雪兎は夏もそのままの姿で、ずっと溶けて無くなる事はない。

 ユキトは溶けて消えてしまった。
 ただ、想い出は溶けずに、今も残り続けている。


 ユキトの想いと、ユキトへの想いと共に。


 伸ばした手はまだユキトの手を掴めないみたいで。

 彼の記憶だけぎゅと、ずっと握ってるんだ────────。


 −FIN−


『雪兎-YukiUsagi-』の最初へ 『雪兎-YukiUsagi-』 4 『雪兎-YukiUsagi-』 6 『雪兎-YukiUsagi-』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前