ほたるのひかり、まどのゆき。-1
――どうも、先輩は卒業してしまうらしかった。
「卒業するんすか」
「はぁ?当たり前でしょ?」
「そうっすよね。……なんか、忘れてました」
12月。冬。
もうちょっと詳しく言えば、僕が高校二年として、そして先輩が三年生になって迎えた初めての冬。
つまるところ。
あと三ヶ月で先輩はこの学校からいなくなってしまうという事を、今更のように思い出したのだった。
「忘れるって……あなたね。高校は三年生までしかないんだから、私が卒業するなんて当たり前の話でしょ?」
「いやまぁ、そうなんすけど」
今日は2学期の終業式。あと一ヶ月もしないうちに先輩はセンター試験を受け、その後は二次試験へと一直線。その試験を前に先輩は卒業式を迎えるワケだ。
先輩が受験勉強に集中するのを邪魔するわけにもいかない。という事はつまり、先輩が在学中にこうしてゆっくり話ができるのも、今日までかもしれないのだ。
「別に話したければ電話でもなんでもすればいいじゃないの」
「……まぁ、そうなんすけど」
「さっきからそればっかりねぇ。いつも通りと言えばいつも通りだけど。……別に遠慮しなくてもいいじゃないの」
――恋人なんだから、さ。
先輩は小さく呟いた。
▼▼
上記の通り、先輩と俺は俗にいう恋人というやつである。付き合ったのが去年の7月頃だったので、そろそろ付き合って一年半が経とうとしている。
去年の4月。
入学したての俺は部活選びの真っ最中だった。
中学校では吹奏楽部に所属していたのだが、これを期に何か新しい事を始めるのも面白いかもしれない……とか考えていたので、いろんな部活を友達と見学して渡り歩いていた。
「お前さぁ、せっかく中学で楽器吹いてたのに高校じゃ続けねーの?」
「いやほら。もしかしたらサッカーとか野球とかさ、やってみたら驚くほど才能が開花しちゃったりするかもじゃん?」
「ねーよ、そんな高校デビューは」
「何事も信じる事から始まんだよ!」
まぁでも。
実際のところ、見学した体育会系の部活はどれもモチベーションが上がらなかったってのが現実だったのだが。
「あと行ってないのは……水泳と剣道と、卓球?くらいか。お前は決めた?」
「ん。まぁ中学に引き続き水泳やるつもり」
「お前速かったしなぁ……………ん?」
「どした?なんかあったのか?」
俺の視線の先には、校内掲示板に貼られた一枚のポスター。
どうやら、吹奏楽部の新入生歓迎コンサートが開かれるらしかった。