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『朱の桜』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『朱の桜』-6

 ──────ソラの声は………何処だよ?

「ソラ……………?」
 痛む足にすら構わず部屋の中へと入り、その名を呼ぶ。

「………夜桜が、月に映えてて綺麗なんだよ……………」
 未だ眠るソラを一瞥して、海はカーテンを開けると窓を開け放った。
 冷たい夜風が吹き込み、薄いカーテンと海の短い髪を揺らす。
 月明かりが、寝ているソラのもとまで差し込んだ。

 そして、ベッドの横へと歩み寄り、ソラの額に触れた。
 触れても僅かに温かいだけで、閉じられた瞳がその空色を覗かせてくれる事はない。

 なんでオレ、こんなに孤独なんだっけ……………?
 ……………ごめん、オレもう、お前ナシじゃ跳べない……………。

 海はベッドの傍にある棚に手を伸ばし、その小さい引き出しを引いた。
 そして中から、何処にでもある様なカッターを取り出す。

「ごめん、ソラ。もうオレ、跳べないから……………」
 その場に座り込み、カチカチとカッターの刃を出しながら海は呟いた。
 その刃は鈍く月光を照り返す。

 コイツの為に跳べないなら、こんなモノ必要ないんだよ……………。

 海は右足の膝下にカッターを突き立てた。
 刃を深く抉り込ませたまま、それを握る右手に力を込めて足首辺りまで切り裂く。
 ザリザリ、と皮膚の千切れる音がして、傷口から鮮血が溢れ出る。
 暗闇で色は殆ど判らないが、べっとりと指先に絡み付くそれは確かに朱い。

 オレを制御するための痛覚は既に麻痺した様に、その痛みを伝えない。
 あの規則的な電子音すら耳に入らない。

 もう一度右足に刃を突き刺し、切り裂いた。
 その上から幾度も幾度も傷を重ねた。
 やがて流れ出る生暖かい血は、寒々しい裸足の上を伝い、床へと流れた。

 頬を撫ぜる風がさっきより冷たい。
 そうか……………頬が濡れてるからだ。
 でも止まらない。

「っっ………ソラ……………」
 白いベッドに真っ赤に染まった手をつき、オレはもう一度彼の顔を覗き込んだ。
 その手の上に涙が流れ落ち、白い素肌を汚す血を滲ませる。

 オレはソラの頬にそっと触れた。

「……………ごめん。跳べなくてごめん……………」
 繰り返す度に涙は溢れて、視界の彼の姿すら歪ませる。
 ちゃんと空の事見ておきたいのに。ずっと忘れない様に……………。

 海は赤く染まったカッターを握り直し、静かに首筋に当てた。


「……………さんきゅ」


 涙に濡れる頬を緩め、最期に柔らかく笑むと、海は自らの手で頸動脈を切り裂いた。



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