華詞―ハナコトバ―2の花-4
「ジュース、おごってやるよ。」
そう言うと、隼人がロビーの自販機にお金を入れる。
ジュースを私の前に差し出して、くれるのかと思って手を伸ばすとさっと自分の頭の上までジュースをあげた。
そのままキャップを開けて、ゴクゴクとジュースを飲む。
「なにそれ。おごってくれるって言ったのに。」
「はい、これ。やるよ。」
「何で飲みかけもらわなきゃいけないのよ。」
「いいだろ、別に。」
何だか腑に落ちないが、のども乾いていたので、私もゴクゴクとジュースを飲んだ。
「…お前さ、全然気づいてないから言うけど、こうゆうことするの、女子でミキコだけだから。」
うっ…。
驚きすぎて、むせそうになる。
「ミキコって呼んでるの、俺だけなの、気づいてないだろ?」
「…うん。気が付かなかった…。」
また、胸が締め付けられる。
でも今度は悲しくて苦しいんじゃない。
「あっちの階段、上がったらすぐ女子の部屋だと思う。少しは、寝ろよな?おやすみ。」
隼人は私の頭にぽんと手をのせて、さっき来た階段を駆け上がっていった。
ミキコって呼んでるのは、俺だけ―。
隼人の声がぐるぐると頭の中で回る。
ジュースを飲み干すと、階段をあがって、部屋に戻る。
そして誰にもばれないようにこっそり布団に入った。
空は、少し明るくなり始めている。
あまり眠れないだろうな、と思いながら目を閉じてみる。
本当は、ミキって名前が良かったのに。なんて思った事もある。
だけど今は、美貴子の方が良いって思える。
だって、この名前は、私の好きな人だけが使える魔法なんだから。
おわり―