華詞―ハナコトバ―2の花-2
「ハヤト、舌が宇宙人。」
「え?なに?」
私がバッグから手鏡を出して差し出すと隼人は自分の真紫になった舌を見て、げっという表情になる。
それを見ていたサキや周りの男子も自分の舌を見せながら笑った。
全く、デリカシーがない奴。食べかけのアイスなんて、もらえる訳ないじゃん…。
小さく溜め息をつくと、担任の先生が集合の合図をかけた。
「あーもうこんな時間だね。明日で帰るなんて早すぎ。」
隣りでサキが膨れた顔をしている。確かにこの3日間、本当にあっと言う間だった。
この旅行から帰ったら、受験勉強に本格的に取り組まなければならない。友達や隼人と違う世界に行かなければ行けないかもしれない…と思うと胸が少し痛んだ。
ホテルに帰って夕食を済まし、みんなでお風呂に入って就寝。初日は興奮からか、
みんなで布団に入って誰が好きだの、あのお店に自由時間に行きたいなどと、
いつまでも話していたが、今日は最終日だけあって、みんな大人しく寝息をたてている。
寝付けない私は、こっそり布団を抜け出してジュースでも飲もうとロビーに向かった。
先生たちの部屋の前を通らないように迂回して歩いていると、非常階段の前に人影が見えた。
ゆっくり近づくと、その人影が振り向いた。
「お…。ミキコ?何やってんだよ。」
かすれた声で話しかけて来たのは隼人だった。
「そっちこそ。なにやってんのよ?」
私も小声で訪ねると遠くからカタンと小さな物音が聞こえた。もしかしたら先生たちが
見回りに来たのかもしれないと思い、一瞬ドキっとする。隣にいる隼人を見ると、すでに階段を降りていて、こっちだと手招きをする。黙ってうなずくと私は隼人の後ろに続いた。
連れて来られたのはホテルの反対側の棟のテラスだった。
とりあえずテラス前におかれたソファに座る。
「あービックリした。まさかミキコが来るなんて。」
「それはこっちのセリフだよ。何であんなところにいたの?」
「何か…今日で最後なんだなーって寝付けなくてさ。」
隼人がボソッと呟くように言う。洗いたての隼人の髪の毛が風に揺れている。
いつもはワックスで立てている前髪が下りていて、少し幼い感じに見える。
話し方も静かだから何だか別人のようでドキドキする。
「私も…。これからの事、考えると何だか寂しい気分になるよ。受験とか、卒業とか…。」
「…。」
不思議な沈黙が二人の間に流れる。
「大学…どこ行きたい?」
隼人が小さく訪ねてくる。
「まだ、あんまり考えてない。」
「…俺さ、N大狙ってる。俺、スポーツドクターになりたいんだ。」
そう言うと、隼人の顔が少し赤くなる。