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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(2)-2



最近の千明はオシャレだ。いや、もともとオシャレだったのだが、それがとても眼につく様になってきた。今この瞬間も、なんだか外国の映画に出てきそうな女の子が僕の隣を歩く。
スキップするような軽い足取りで三色のナイキスニーカーがするすると進む。その度にスモックのようなふわふわした素材のスカートが揺れた。こっちを振り向き「えへへ」と笑う顔には深い紫色した縁の太い眼鏡がかかっている。これは最近一緒に買いにいった千明のお気に入りだ(ちなみに代金は僕が支払った)。眼鏡の奥から茶色いビー玉みたいな瞳が僕を見ている。頭に赤いペレー帽をちょこんと乗せ、銀色のリュックサックを背負っている。僕はそのリュックに対したものが入っていないことをしっているのだが、肩をかける部分を宝物を守る様にぎゅっと握りしめていた。
「ご機嫌だね?なんかいいことあった?」
「私はいつでもご機嫌やでー?ちーくんが側に、いるんやもん!」
ラララーと鼻唄を歌いながらくるくるとその場を回る千明。僕なんかは転びそうでひやひやするものだが、千明にとってそんなことはどうだっていいようだ。さらりとしたショートボブの髪が揺れる。少しだけ明るい色の千明の髪は、日が射す所にでるとようやくその色を確かめれられるほどの栗色をしていた。全体が下に向かうにつれゆっくりと内側に巻いている。やわらかそうなふっくらとした頬がそれを向かい入れるかの様に赤い。
「ちーくん、今日はあったかいなぁ!桜はまだやけど、私の心は桜色やわ」
「へぇ、ピンク以外の色した心臓の持ち主に、僕はあったことないけどね」
「むぅー。鏡見てみたら!?」
「どういう意味さ?」
「ちーくんの心は青紫色ってことや!」
千明は深い緑色したベストのジャンバーをぬいで、今はクリーム色したセーターに白いシャツだけだった。四月にしては寒い日続きだったため、今日は余計にあったかく思える。春の柔らかな日差しがありがたい。
「ちーくんちーくん!おなかすいた。なんか食べにいこー?」
「いいけど、おごらないから」
「ヴー、ちーくんのケチ!」
「計画的といってほしいね」
「ちーくんの計画的!」
「悪口になってないよ、千明」
そういいながら、レジの前でだだをこねる千明に、しぶしぶお金を出してしまう僕なのであった。




大学生の四月は忙しい。いや、人それぞれなのだろうが、僕の場合は忙しかった。先の一件以来(前作参照)、なにかと幹事の会計係は僕の役となってしまったからだった。四月と言えば、新学期。新学期と言えば、新入生。新入生と言えば……
「新歓!!やっと!やっとこの季節がきた!俺の春よー!!」
隣で大きな声で叫んでいるのは木村さん。一回生の頃千明に猛アタックし、千明の嫌い友人リストにのった貴重な人だ。僕が一回生の頃に三回生だったのだが、見事な単位不足を達成し、この春めでたくダブってしまったらしい。
「先輩、もうOB扱いじゃないんですか?」
その隣で煙草を吹かしているのは水増し野郎こと田中(前作参照)。目つきがするどく髪の毛はオオカミのように真っ白だ。
「うるさい!おれは永遠の大学生なのだ!お前ごときじゃ俺を止める事などできはしない!」
「はぁ、そうっすか」
「なんだその気のない返事は!?お前は新入生が嬉しくないのか!?新入生=新しい女の子!しかも10代!」
「はぁ、そうっすね」
「田中!お前は嬉しくないのか!伝統ある天文サークルで、新歓とはどういう意味を持つか、知らないわけではあるまい!?」
「女アサリっすか?」
「うむ!そうだ!」

僕が所属する天文サークルは、星を眺めたり、空を見に行ったり、星座の成り立ちについて研究することを主としているサークルなのだが、そんなものは名ばかりで、実情は出会いサークルと化している。そこで見つけた理想に叶う異性と、サークル内で恋愛活動をし、見事カップルになった暁には、サークルを去っていくのが通例となっていた。つまり今ここにいる木村さん、田中、僕の三人は、決まった恋人がいるわけでもなく、やることもないからサークルに所属している不謹慎な学生といえるだろう。
木村さんは千明にフラレて以来、なにかに取り付かれたかの様に失恋をくりかえしている。今では生涯童貞を宣言しているので、あまり女性も近づかない様だ。
田中は天文サークルメンバー生き残りのなかでは、珍しくモテる(逆をいえば天文サークル生き残りメンバーの大半はモテない訳だ)。しかし定まった恋人を持たず、別れたり引っ付いたりを繰り返した挙げ句今はフリーを公言していた。
僕は、恋はしていた。叶わない恋なのだけれど。
「いやぁ、たのしみだ。万事頼むよ水谷」
「僕は会計なので、僕のやるべき事はやりますよ」
僕が想いを寄せる人のことを、二人は知っている。それも当然の事だ。一年前の今頃は、新入生としてこのサークルに参加していたのだから。



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