piercing…-1
思った以上に早く、しかも心の準備の出来ぬまま、その思いを確認できるチャンスを迎える事となった俺は、焦りの境地で彷徨っていた。
「あっ、そうそう、耀司(ようじ)…昨日言ってた俺に聞きたいことってなぁに?」
何時ものようにベッドに転がったまま本を読んでいた翔太は、サラリとそうのたまった。
オイオイ…
『最近俺痴呆症になったみたいで、何でも直ぐに忘れちゃうんだよなー』なんて豪語しているくせに、お前…
そういうことだけは、キチッと覚えてんじゃねぇよ!
俺は、体内中の血液が一気に顔へと集中していくのを感じ、紅潮する顔を見られまいとプイッと背ける。
しかし、翔太は自分が相手にとって至極不都合な事を尋ねたという意識は全く無く…
あたふたと目を泳がせている俺を、ん?どうかした?なんて言いながら屈託のない笑顔で覗き込む。
こうなると、彼の涼しげな笑顔の前に、俺の挙動不審な仕草はこの上なく不自然で怪しいものになってしまう。
「いや…あのさ……ソレって…」
誤魔化しの効かない状態に、ポツリと口を開いたのは、俺。
上目遣いにチラリと覗き見た彼の顔は穏やかに微笑んでいた。
俺が『ソレ』と言いながら指差す先をチラリ横目で見遣り、そこにあった耳朶に付いている球体を指で摘んでキョトンとして呟いた。
「ソレって…これ?…ピアス?」
あぁ…そうだよ…ソレ。
ずっと前から気になってたんだ。
その…
左耳の二つのピアス。
それって…
大切な人からもらったの?
それとも、誰かとお揃い……とか?
何時か聞いてみたいと思っていたけれど勇気がなくて言い出せなかった。
そう…昨日も今日こそは聞いてみようと意を決したものの、やはり結局は聞けずにお茶を濁したのだ。
だってもし、もしも返って来た答えが最悪だった場合はどうする?
その時に俺は平常心を保てるだろうか…
気が変になったりはしないだろうか…
自分に自信が持てなくて、聞くに聞けなかったその項目。
そんな心に秘めたその謎の答えが、今まさに解き明かされようとしている。
俺は目をギュット瞑って拳を握ったまま身体中を強張らせた。
そして自分でも気付かないうちに、心の中は神に祈りを捧げていた。
神様…どうか僕が頭の中で考えている事と同じ答えが返ってきませんように……
崇める神など居ないくせに、こんな時だけ神頼みか?
何処からかそんな声が聞こえた気がした。
それと同時に聞こえた彼の言葉に、俺は一瞬耳を疑った。
「なんだぁ〜。お前もピアス開けたいのか?」
「……」
はぁ???
確かに俺が考えていた事とは違う答えが返ってきた。
だけど……
なんなんだ?そのトンチンカンな答え…
ち、違いすぎるんだよ!!
彼のチグハグな回答に、俺はオロオロと再び目を泳がせる。
だから、膳は急げ等と言いながら、彼が机の中から取り出すピアッサーを目にしても、イマイチ今の状況が理解出来ないでいた。
だってホンノ数分前まで、誰がこんな事態に陥ると想像出来ただろうか!?
俺は手早く準備を進める彼をボンヤリと見詰めた。