piercing…-2
「綺麗な…」
「え?」
「え?あ?…ぁ…いや…き、綺麗なピアスだな…っと思って」
なんとなく見ていた彼の耳に光る黒い石に思わず出た、俺の『綺麗』というの言葉に、あぁ、コレ?っと呟いて、彼は双眸を細め穏やかに笑う。
「オニキスっていう石だよ。黒曜石とも言うんだけどね。好きなんだよ俺」
「ふぅ〜ん…俺、石なんて分んないから。分るのは、ダイヤモンドと後は…石炭くらいかな?」
そんな俺の言葉に小さくクツクツと咽を鳴らして笑った彼は、身を乗り出すと氷をそっと俺の耳朶に宛がった。
ヒンヤリとする感覚にピクリと身体が震えて、あとはジンワリと失われる感覚に身を委ねていく。
「あぁ…まさか、俺がピアスする日が来るなんて思いもしなかったな。なぁ〜…今更だけど、俺ピアスなんて似合わなくない?」
「ハハハ……ほんと今更だな。そんなことないよ。似合うんじゃない?っと…そろそろイイかな?」
俺は慌てる。
耳に触れる機械的硬質な物体に大いに慌てた。
「ま、待って。ねぇ、痛くない?ねぇ…ちょ、ちょっと…まっ…――」
「はい!終わり」
「!?」
え?……
ハッと顔を上げると、痛くないだろぅ?っと言う、何時もと変わらない間延びした声音と、ちょっとだけニヤけた感じのあの笑顔があった。
「…もう終わったの?……全然痛くないんだな」
だろ?と言いながら、彼は机の上の手鏡を差し出す。
恐る恐る覗いて見れば、そこには目を凝らしてみても見えないほどの小さな点がひとつ。
それに彼はシルバーのピアスをはめ込む。
「なぁ、このシルバーのピアスはどの位で取れるんだ?」
「う〜ん、1,2週間ってとこかな?」
「ふ〜ん…じゃさ、その後…あの…この翔太のピアス俺にひとつチョウダイ?…あっ…いや…あの、と、とと特に意味が無いならでいいんだ…特に……」
俺は身体を捻って彼のほうへ向き、目線よりちょっと上にある彼の耳を指差す。
特に意味がないのなら…
勇気を振り絞っての発言だった…
誰かに貰ったとか大切な人との思い出とか…
そういうのでないのなら…そんな意味を含めた言葉だという事を、何事にも鈍いお前は理解していただろうか?
しかし、堪らなくなって視線を外し、押し黙った俺を前に、彼は拍子抜けするほどアッサリと頷いた。
「これ?オニキスのピアス?あぁ、いいよ」
見詰め合ったままの一瞬の沈黙の後…
『やった!お揃いだぜ』と思わず言葉に出し、喜ぶ俺の姿目を細めて見ていた翔太がふと呟く。
「なぁ、耀司って誕生日何時?」
「へ?誕生日?8月だけど?」
「8月?ってことは…うーん。あー、ペリドットだな」
へ?と間抜けな声を出して見上げる俺を見下ろして
「誕生石。8月はペリドットなんだ。緑色の綺麗な石だよ」
そうなんだ…と不思議そうに見詰めたままの俺を見て、とても楽しそうに笑っている翔太の表情は、温かくて、何故か俺は息苦しさを覚えた。
そうやって…優しく見下ろされると…心臓がトクッと鳴って身体が動かなくなる。
そんな俺の気持ちなど、このお惚けヤロウは知ってか知らずか……
俺の体をそっと抱き寄せ、耳朶を甘噛して甘く囁く。
―今度お前の耳にもう一つ穴開けて、耀司の誕生石のピアス一緒に付けよう…オニキスとペリドット…お揃いだね―
クソッ…やっぱピアス……痛てぇじゃねぇか…
耳は痛くなかったけれど、此処がすごく苦しいと胸を押さえる。
でもさ…俺を優しく包み込んでいるアイツは気付いてないんだよ。
妙な巡り合わせってあるんだよな。
あんたが好きだって言ったその石…
黒曜石(オニキス)も8月の誕生石だってこと。
オリーブグリーンの俺の石も暗夜の如く漆黒のアンタの石も。
Ichbindein,unddubistmein!…
私はあなたのもの、そしてあなたは私のもの…
結局、全部俺のものだってことさ。