恋愛小説(1)-8
◇
これも公平をきっするために言っておかなければいけないことだろう。僕と千明の関係について、だ。
僕と千明は天文サークルの新入生歓迎会で出会った。
僕はおおいに酔っていた。今までの人生で一番酒を飲み、後日、記憶に残らないという体験をはじめてした日だった。
どこの新入生歓迎会も同じようなもので、先輩の挨拶が終わるとそこここで勝手に飲み始め(もちろん未成年ばかりだ)、僕のような下戸はそれが知れるとターゲットにされるのが相場だ。今回も例外ではなく、僕は一人の先輩に眼をつけられ、そして飲めもしないアルコールを浴びる様に飲まされてしまった。二杯目まではなんとか覚えているのだが、三杯目に何を飲んだかはまったくといっていいほど思い出すことができない。そんな中にいた千明は人気があった。控えめにいって十分といっていいほど千明は可愛い女の子だったし、標準語がひしめき合う飲み会で千明の関西弁は異彩を放っていた。異彩を放つということは、男性にも女性にも眼をつけられる理由になったのだろう。千明は主に男性陣に執拗に話しかけれていた。
女の子は飲みを強要されない、というのもどこのサークルでも共通のルールらしく、酔った勢いに任せて女の子を口説く男性陣と、素面でそれをまんざらでもない雰囲気で騒がす女性陣は、まぁいい勝負だったに違いない。今になって思うと、その状況をまったく覚えていないというのだから、僕だって負けていないとは思うのだけれど。
翌日、眼を覚ますと僕は見知らぬ場所にいた。この部分だけ抜粋してみると、ファンタジー作品のような始まりだが、実際はそんなに美しくない。身体を起こすと頭がガンガンと痛い。24時間ずっと経済本を読んでいたってこんなに頭は痛まないだろう。それに異様に喉が渇いている。ここがどこだかもわからないのに、僕の身体は必要以上に水を求めている。
ノロノロと身体を動かそうとすると頭の上方から声がした。
「あ、あかんて寝てな。急に動いてもしんどいだけやで?」
なんだか聞き覚えのある声だった。
「はいこれ。喉かわいてるやろ?」
そういって差し出されたのはコップ一杯の水だった。それを両手で大切そうに差し出す女の子は、たしか昨日の新入生歓迎会にいた女性だった。そこで僕はやっと現状を把握する。そうか、僕はあのまま酔っぱらってしまい、この頭痛は二日酔いからくるものか。喉が渇くのはアルコールのせいなのかもしれない。そう思って僕は貰った水を一息に飲み干した。
「嫌々飲む酒よりよっぽどおいしいやろ?もう一杯のむ?」
「いや、大丈夫。ありがとう。助かったよ。それよりここはどこ?」
ようやく回復しはじめた機能をフルに使い、僕は昨日のことを思い出そうといた。しかし完璧に回復しているわけではないようで、頭の痛みにそれを邪魔される。