恋愛小説(1)-7
今年天文サークルに入った新入生は約30人。男女比率はだいたい半々。すでに辞めていった人数は9人。彼女もその一人を数える。特に活動と言った活動もなく、大半が寒い冬を恋人と過ごそうと心に決めている人たちが占めていたから、それもまぁいたしかたないこととは言える。ほとんどのメンバーはサークルを離れると、今までどんなに仲が良かろうが、その交流は途絶えていた。彼ら(あるいは彼女ら)はこれみよがしに恋人を隣に置き、我が者顔で校内をあるいていたのだから、それもまぁしかたのないことかもしれない。
僕はそんなサークル内とサークル外の確執を気にせず付き合いをしていたから、特異な存在だったのかもしれない。理由の一つとして、側にほとんどの場合に千明がいたことが上げられるだろう。心ない人は僕らの微妙なバランスの上でなりたつ関係を、つき合っていると勘違いしているようだったし、サークル内では、そんなことはないことは周知の事実だったからだろうと僕は考えている。
そういったこともあって、僕と彼女の小さな繋がりは保たれていた。週に二〜三回は校内で出会い話をして、校外で合う事は一度もなかった。
◇
僕は千明に、僕が千明と一緒にいることが、千明を利用しているようで心苦しいことを伝えたことがある。
「僕はサークルの外との関係を保つために千明と一緒にいると思っている人もいるみたいだね」
「むぅ?そうなん?」
「どうもそうらしい。でもあながち間違っていないかも知れない。僕は彼女と話すことに淡い期待みたいなものを持っているのかもしれない」
「しれないって、自分でもわからへんの?」
「うん。はっきりとは。彼女とどうこうしたいという気持ちはない。これは確かなんだけど、その一方でどうにかなるかも知れない、と思っていないというと、嘘になると思う」
「複雑なんやね、ちーくんは」
「千明はどう思うのさ?精神衛生上は、よろしくない関係だと思うけど?」
「そらよろしくないし、嫉妬もするけど、これは私が望んだ関係やから。私はちーくんの側におれたら、それでええの」
あっけらかんと言う千明の眼が嘘をついていない様に見えて、僕はほっとした。なにをほっとしたのか、自分でも一ミリもわからなかったが。