投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

恋愛小説の最初へ 恋愛小説 5 恋愛小説 7 恋愛小説の最後へ

恋愛小説(1)-6






「ふむふむ」

千明があったかいお茶を啜りながら話を促す。僕は学校内で彼女と会う度にどうしようもない気持ちに駆られて、毎回同じ様な気分になり、毎回同じ様なことを千明に話している。習慣という訳ではない。でも心の吐露は自身で歯止めがきく優しいものではなく、そして流しっぱなしにしていたほうが楽だってことだけだ。罪悪感を感じないわけではないが、僕の場合、それを受け止めてくれる人は千明しかいなかった。

「その後は千明も知っているとおり、彼女がサークルに入ってきて、僕の友人が彼女とつき合ったことを知って、僕は彼女が好きだってことに気がついた。まぁ高校のころはサッカー部補欠とそのマネージャーっていう関係だったから、そんな浮ついた話もなかったんだけど、距離が近くになったことで何か勘違いしたみたいだね」

むぅ、と声にならない声を発した千明は、机に寝そべりわからないといった表情を作った。ほっぺたが机に触れて柔らかに形を変えて、僕はそれを突っつきたい衝動にかられるのを必死にこらえなければならなかった。

「じゃあちーくんはさっくらーの事を諦めたん?」

「それはもう何度も言っているだろ。諦める、諦めないなんてことは関係ないんだ、この場合ね。彼女は僕に先輩としての関係を求めているし、第一に彼女に恋人がいるのにそれを踏まえて求愛できるほど、僕の度胸は座っちゃいない」

「でも私はちーくんがさっくらーが好きなんを知ってて、ちーくんにアタックしてるやん」

「うん。だから僕は、本気で千明が凄いと思うときがたまにあるよ」

「たまに!?!?」

「うん、たまに」










高校時分、僕は部活をしていた。まぁ学生時代のほとんどの人が部活やらバイトやらの時間を過ごすのだから、珍しくはない。僕もその一人で、好きこそもののナントやら、とはいかず、知識だけが取り柄のベンチ要員として三年間を過ごした。それなりに熱中し、最後の試合に出してもらったこともあって、引退するときに僕は大いに泣いた。哀しかったわけでも、嬉しかったわけでもなかった。ただただ涙がこぼれた。今になってあの涙の理由を考えることが、僕はたまにある。でもそれを理解できるロジックは僕のなかに存在しなかった。けれど理解できなくても落ち込む事も無かった。ただ胸の奥の方がジンワリと暖かく感じて、それがムズかゆいやら恥ずかしいやら思うだけだ。人はそんな感情を懐かしいと表現するのかもしれない。

高校時代にくらべれば、サークルでの活動で僕は熱心といえる行動をしていなかった。空を見上げることが好きだから入ったものの、大半のメンバーは出会い目的で入った人ばかりだったからだ。彼ら(あるいは彼女ら)は眼に叶う異性を見つけると輝く星そっちのけで求愛行動を示し、見事恋人になった暁にはサークル内を去っていった。あとに残った人間は、サークル内でも浮いていてた熱心な研究者きどりの学生か、僕と千明の様な目的も無く暇つぶしで入った観察者の端くれにもなれない人ばかりであった。僕らは表面的な衝突を避けようと仲良しを装い、かといって個人のピンチを助けようともしない関係に、そんなぬるま湯のような人間関係に、改善を求めるようなことは決して無かった。

もちろんそんな人間関係ばかりでもないのはどこにいっても同じ事で、変化はいつでもあるものだ。だらだらと活動を続けていた僕らにとっての刺激は、なんと言っても新入生だったのだろう。彼女が入ってきたときも、多いにサークル内は盛り上がった。出会いに乗り遅れていた上級生はなにもわからない新入生相手に自慢げに星の解説をし、女の子の気を惹こうとあの手この手でコミュニケーションを計ろうとした。僕と言えば、もうそんな事をするエネルギーも無かったから、千明と一緒に星を眺めては煙草を吹かすだけだった。


恋愛小説の最初へ 恋愛小説 5 恋愛小説 7 恋愛小説の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前