恋愛小説(1)-4
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食堂の中はあったかく、昼時を過ぎたこともあって閑散としていた。僕らは適当な席につき、また適当な日替わりメニューを頼み、それを適当に食べた。おいしかった。
「ちーくん、その唐揚げちょうだい」
「じゃあなんか面白いこと言って」
「ふとんがふっとんだ!!」
「三点」
「ふとんがふっっっっっっっっっっとんだ!!」
「わかった、じゃ一個だけ」
どうやら本当に欲しかったらしく、二回目のだじゃれを溜めていたときは眼が泣きそうだった。僕は思わずどきりとしてしまう。僕は直ぐに千明の行動にどきりとしてしまう。
「わ!ホンマに!?ありがとーちーくん!やっぱ優しいなぁちーくんは!」
もぐもぐと唐揚げと咀嚼している千明は、ひまわりの種を頬張るハムスターにも見えなくない。
「あっ、先輩、今頃お昼ですか?太っちゃいますよ?」
もう食べ終わるという頃に、オシャレに着飾った一人の女の子がそう声をかけてきた。おしゃれな眼鏡のフレームは嘘みたいに赤い。でもそれを誇るのでもなく、かといって卑下するでもなく完璧に存在感を主張している。洒脱が逸しているな、と僕は彼女を見て毎回思う。彼女が同じ服を来ているところを僕はまだみたことがない。
「僕は多少太った方がいいんだ」
「ちーくん、インドの貧民街が似合いそうやもんな」
けらけらと笑う千明の横で、僕は否定するでもなくみそ汁を啜った。芳醇な香りが口いっぱいに広がるの確認して、僕は彼女に問いかけた。
「桜井さんこそなにしてるの?講義、もうはじまっているんじゃない?」
自分たちが大きな顔でサボっている事を棚に上げていることを知っている千明はクスクスと笑う。
「私は午前で終わりなんで。今から図書室にいって適当に時間をつぶすつもりだったんです」
「さっくらーは図書室が大好きだにゃー」
「千明も少しは見習わないとね」
「む、ちーくんだってそんな図書室いかへんやん!?」
「僕はいいんだよ。本は読むから」
彼女が抱えている本を見ると難しい言葉が書かれている。これからその本のレポートでも書くのかもしれない。
「あ、よかったら先輩たちもどうですか?一人じゃ味気ないんで」
「せっかくだけど、遠慮しておこう。本は一人で読むタイプなんだ」
世間の人たちの中には、本は大勢でワイワイと読むものだと思う人たちがいることを、僕は大学に来てから知った。本の世界は、内向的で、静かで、どうしようもない自慰行為に似たものだと、僕は思っていたからだ。この前は肩を寄せ合い小説を読んでいる二人のカップルを見た。題名は「世界の中心で愛を叫ぶ」だった。