恋愛小説(1)-20
□
夜が世界を両手で包もうとしている。太陽は徐々にかけていき、最後には影も残さず明日を待ちわびる人の所へ向かってしまった。
「ちーくん、アイス食べたいかも」
「うん?どうしたの急に」
「えへへ。あの時のこと思い出したら食べたなってきた」
「あの時って、あの時の?」
「うん。私がちーくんにはじめて好きって言った時」
「そういえばあの時も千明、アイス食べたいって言ってたけど、本当に食べたかったの?」
「ホンマに食べたかったよ?」
「ホンマに?」
「あははっ、一年経ってもちーくんの関西弁は上手にならへんなぁ」
「千明だって、全然標準語覚えないけどね」
「覚えた方がいい?」
そういって千明は僕の顔を覗き込むように見つめた。茶色い瞳が僕だけを写している。街頭に照らされて顔の半分だけが明るい。
「覚えたいの?」
「んーん。そんなことない」
「だったら、千明はそのままでいいよ」
「ホンマに!?」
「うん、ホンマに」
こうして僕らの一日は終わる。何事があっても、何事もなかったかのように。
続く。