恋愛小説(1)-2
□
僕らは大学生二年生で、つまり二十歳で、とりあえず恋をしていた。まぁ大学生の大半は恋をしていて、残った人たちの大半は二次元の世界に恋をしている事を考えると、僕らはまだまともな方だと僕は思うのだけれど、専門学校とかで必死に頑張っている友達とかに突っ込まれると、強いことは言えない立場だ。僕らは僕らで必死なのだけれど、友人の必死度合いと比べると月とスッポン、いや月とミジンコぐらいの差があるとういうのは、自覚している。だからといって現状を打破しようと何かに努力しているわけでもないし、しようとも思わない。つまるところ、文句ばかりが上手になった中学生を想像して貰えれば容易く僕らが理解できると思う。
「たっはー。さっむいねー。寒くて寒くて、さっむいねー」
と今隣で言っているのは井上千明。大学で知り合った友人。期待を裏切るようで悪いのだけれど、僕が恋している相手とは違う。
「寒いね」
「あー、今のちーくんの寒いねってやつホンマに寒そうやった!でも私の方がホンマに寒いもんね」
後々誤解を招くかもしれないから先に言っておくと、千明は僕の事が好きだ。うぬぼれとかじゃなくて、本当に。彼女がそう言っているのだから、そうに違いない。
「ちーくん、今なに考えてるん?」
千明は僕のことをちーくんと呼ぶ。僕にあだ名というものが無かったため、彼女自身が考えた完全オリジナルだ。ちなみに僕は彼女以外にちーくんと呼ばれたことは無い。
「ん?なんで千明が僕のことちーくんって呼ぶのかってこと」
「えぇ?またその話し?だから言ってるやん。水谷→みずっち→ちーくん。ほらちーくんの完成」
「うん何回も聞いた。でも何回聞いても理解できない」
「えーなんでー?かわいいやんちーくん」
「かわいいとか不細工とかそんな問題じゃない。みずっちまでは理解できるとして、なんで『ち』の部分をリスペクトした!?」
「えーだって、なんか呼びやすい」
えへへ、と笑う彼女は、時として僕をハッとさせる程かわいい。くりっくりで茶色の瞳に僕が写っている。
「その理論だと、ほとんどの人間をちーくんと呼べそうだね」
「あっ、ホンマや。けど私、ちーくん以外ちーくんって呼ばへんで?」
「うん、どっちでもいいけどね」
どうやら千明はちーくんという呼び名に特別の思い入れがあるようだが、僕はそのことには触れなかった。なんていうか、なんとなく。