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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(1)-11






秋になって、学園祭のシーズンになると、僕と千明の距離はグッと縮まることになった。なにしろ僕がサークル内でまともに会話するのは、千明一人だったからだ。なんの信念からかしらないが、我がサークルの鉄のルールにも起因する。そのルールとは“学園祭は全員参加!!”という今時流行もしないファシズム思想だったから、なおさら笑える。

ともあれ郷に入れば郷に従え、という言葉もあるように、僕は嫌々ながら学園祭活動に参加することになる。後に千明は「ちーくんは断る勇気もなかっただけやん?」と言って笑ったが、そんなことはない……はずだ。しかし参加するといってもやる気のある人と無い人とでは明らかに温度差があるのはいなめず、テンションを高く保ち続けることが出来る人間は、僕のような落ちこぼれが輪にいると気分を害するようであったのは明らかだった。

それが表面化し始めたのは10月に入って一週目の水曜日。僕は些細なことでサークルメンバーと喧嘩になり、場の空気が悪くなったのだ。

弁解するようだが、今回の場合においては僕はなにも悪くなかった(ほとんどの場合僕が悪いことはここで認めておくとするけど、今はまだ別の話だ)。僕は形式的に参加するといったことが認められず、そればかりか会計係に任命されてしまっていた。トチ狂っているとしか考えられない暴挙だ。のちのちよく考えてみると、実質業務ができそうな人材はほとんど見当たらなかったので、仕方の無い話ではあるのだけれど、この時のフラストレーションはそれはもう凄いものだった。そんな間の悪いタイミングで事件は起こる。一部のメンバーが模擬店の飾り付けに使う装飾費を水増しして報告し、自分の財布の中を温めようとしたのだ。それが発覚したとき、僕は爆発した。それが先輩だろうがなんだろうが関係のないことだった。押し付けられ、いい加減な報告を鵜呑みにせっせと仕事をこなしていた自身をばかばかしく思った。

なんらかの処罰を施せば良かったのだろうけど、ぬるま湯につかりきって上がれないサークルのメンバーは、この事件を見なかったことにした。さらにこの時に僕は会計係を辞退できたら良かったのだけれど、学園祭の運営委員からお達しで、それが叶うことはなかった。会計係と実質的な実行係との確かな溝はそうして生まれた。

そんな時に活躍したのが千明だった。僕は千明とは話すし、千明は千明で(多少屈折した感情は持ちながら)他のメンバーとも話す人だったからだ。

「なぁみずっち?」(千明が僕のことをみずっちと呼ぶ様になったのはこのころだ)

「ん、なに?井上さん?」(僕はまだこのころは井上さんと呼んでいた)

「なんか木村さんが材料費足りひんかったみたいであとで領収書渡すし頂戴っていってたで?」

「そっか、わかった。また木村さんには僕から言っとく」

木村さんというのは三回生のサークルメンバーで、良く周りをとりもつ信頼できる先輩だった。

「でもなんで井上さんにそんなこと言ってたの?」

「うん?んーなんかみずっち忙しそうで話しかけづらかったからって、伝言たのまれた。アカンかった?」

「いや、助かるんだけど、直接言ってくれたらいいのに」

「それは無理やろぉ」

人が悪そうな笑みも、千明がすれば嫌みっぽくはない。これは千明の素晴らしい才能だと僕は思っている。

「みずっちあんなに派手に怒ったんやもん。みんな気つかうって」

「でも井上さんは、使わないんだね?」

「ん?」

「だから。そのなんていうか。僕には気をつかわないんだね?」

「使ったほうがいい?」

もちろん、そんなことは無かった。




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