華詞―ハナコトバ―1の花-3
「何…突然…。」
「…なんか、緊張しない?」
「…うん。」
「ははっ。やっぱり。俺もうずっと緊張してた。ヨスガって言われるのも、さちって言うのも。」
「…ごめん。」
「別に良いけどさ。あ…あのさ、そのプレートの中の紙、貸して?」
藤沢は私の左胸にまだついたままのプレートを指さす。
私はプレートから名前の書かれた紙を藤沢に差し出した。
すると藤沢がペンで何かを書き出す。
「ね、この紙、俺にくれない?」
「え?良いけど…何で?」
白石幸と書かれた紙の上に「しらいし ゆき」と藤沢の綺麗な字で書かれていた。
「これで、もう間違わない。」
藤沢は紙を私の前に出してにっと笑う。
あ…八重歯が見えた…。
八重歯が見えただけなのに何故かドキッとする。
「白石ゆきはこの講義、選択する?」
「何それ、何でフルネームで呼び捨て?」
「や、何となく。」
「呼び捨ては良いけどフルネームはやめてよ。」
「…ゆき。この講義、取る?」
ドキ…。
呼び捨てって何で下の名前?
いちいち緊張損だと思って藤沢を見ると、ちょっと顔が強張ってるのがわかる。
もしかして、緊張してるのかな。
じっと見ると藤沢の頬がまた徐々に赤くなってくる。
「あはは。取ろうかと思ってる。藤沢ヨスガ面白いし。」
「なっ…。フルネーム呼び捨てやめろ。」
「じゃあ…よすが…。」
何だか講義の時より緊張する。
私も少し赤くなっているような気がする。
「はははっ。ゆきの顔トマトみてー。」
「なっ。そうゆうヨスガもリンゴだよっリンゴっ!」
お互い真っ赤になりながら笑いあう。
気が付くと次の講義開始のチャイムが鳴っていた。