『夏、指切り、幻想』-6
「……ありがとう……………」
霞んだ声が、仄かに耳に届く。
「カラス……………」
俺は幾度もその名を呼びながら、涙を流した。
返事をするその少年は、既にいないと知っていても。
それでも俺は、ただそうするしかなかった。
滲んだ視界で何かが光っているのがいくつか見える。
本当に小さい光。時折強く光ったり、すうっと消えたりしながら、ゆっくりと舞う。
……………蛍だ。
蛍が林の暗闇に、仄かな光を呼び込んでいる。
カラスを弔うかの様に見えるのは、俺の都合のいい妄想だろうか。
俺は、もう一度カラスのいた場所を見た。
……………黒い羽根が一枚、落ちている。
まるでカラスが最期、俺に残していった様だ。
口の中で、彼から貰った飴玉がすっと溶けた。
まるで、彼の残像が溶けてなくなってしまった錯覚すら感じる。
俺は落ちている羽根を拾い、目元を腕で拭いながら立ち上がった。
飴玉は溶けてなくなってしまったけど。
カラスも消えていなくなってしまったけど。
「その残像は………ずっと俺の中に焼き付いたままだから」
俺は、真っ赤に腫れ上がったままの目で微笑んだ。
時間の止まったお前より早く大人になるけど、お前だけは忘れない。
お前の為にずっと……………笑っててやるから。
翌日には、カラスの墓参りをしてやった。
そして墓前に供えたのは、アイツの好きだったソーダの飴と、笹舟だ。