『夏、指切り、幻想』-5
「………もう、逢えないのか?」
「涼斗とは遠くなっちゃうかもね」
掠れかける涼斗の言葉に、カラスは穏やかな声で答える。
声が震えた。
乾く喉が潰れそうになる。
「涼斗、僕は涼斗が大好き。夏に君と逢って別れる度、引き留めたくて堪らなかった。ずっと傍にいてほしかった」
カラスは微笑んだ。しかし、その黒曜石の様な切れ長の目からすっと、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「あれ…………?あ………ごめん、涼斗……………」
その涙に気付き、カラスは目をこすった。しかし、次々と涙は溢れてきて、留まる事を知らない。
「ごめん、ごめん涼斗………ごめん…………………」
「カラスッッ……………」
俺はカラスの腕を引くと、強く抱き留めた。
初めて抱くヤツの身体は細くて頼りなくて、抱き締めるだけで折れてしまいそうだった。
「俺も、何度も………お前連れて、帰れたらいいと思ってた。夏だけじゃなくて、もっと、色々な季節を、カラスと見たかった。カラスと……………」
潰れそうな喉で、つっかえながら俺は云った。
「俺は、カラスが好きで…………ずっと一緒にいたくて……………」
カラスはただ、俺の腕の中で幾度も頷いていた。
抱え込んだカラスの体温が暖かく伝わってくる。
このまま時間が壊れてしまえばいいと思った。
そうすれば、俺とカラスはずっとこのままでいられる。
このまま……………一緒のままで。
「涼斗、もう、逝かなきゃいけない、みたい……………」
すぅ、と、カラスの身体が仄かな光を帯びた。
みるみる身体が淡く透き通っていく。
それと一緒に、感じていた体温まで薄まっていくのだった。
カラスはそっと、右手の小指を差し出した。
「ずっと忘れないって。約束、して……………」
「………あぁ……………」
俺はその小指を繋いだ。
するとカラスは、涙で濡れた顔で微笑んだ。
俺の好きな、カラスの微笑み。
「笑ってる涼斗が大好きだから………。ずっと、涼斗には笑っててほしいんだ……………」
繋いだ指が緩やかにほどけていく。
抱き締めている感覚が徐々に消えていく。
「待ってくれ、カラス。また逢おうって、云ってくれよ……………」
「ごめん………さよなら、だよ……………」
カラスの姿が揺らぎ、消えていく………。
彼を纏っていた光がしぼんでいった。
「カラスッ!!」
神社は、闇と静寂に包まれた。
陽が落ち、カラスの光も消えて、辺りは真っ暗だ。
真っ暗だ……………本当に真っ暗だよ、カラス……………………。
「カラス………カラス………………」
触れていたぬくもりを確かめる様に両手を見つめた。
追いすがる様な俺の声だけ、弱々しく闇に掻き消えていく。