『夏、指切り、幻想』-4
「…………なん……だよ、コレ……………」
内容を読んで、涼斗は震える声で呟いた。
そしてその新聞を抜き取ると、一目散に玄関へと走った。
「はぁ、はぁ……………」
息を切らしながら、俺は走った。
目指す場所は、あの神社。
考えるより先に、走っていた。
ふと見上げた空は、もう深い藍色に染まりつつある。
俺はポケットから、今日の別れ際カラスから受け取った飴を出した。
頼む、カラスに逢わせてくれ……………。
俺は何かの願をかける様にそれを口に入れ、祈りながら鳥居をくぐった。
駆け上がる階段は、いつもよりずっと長く感じる。
……………もう静まり返った蝉に嘲笑われてるみたいだ。
「………はぁ、はぁっ……………カラスッ……………っ……………」
階段をようやく駆け上がり、狛犬と獅子の間で、俺は立ち止まった。
膝に手を当て、肩で息をする。汗がぱたぱたと落ちては、地面に染み込んでいった。
カラス………何処だよカラス……………。
「涼斗?」
凛と透き通るその声に、俺は顔をあげた。
賽銭箱の向こうの、社の中に続く階段に、カラスが腰掛けている。
「どうしたの?」
カラスは、普段と違う様子の涼斗を怪訝な目で見つめていた。
鴉の濡れ羽色をしたヤツの髪が、逢魔が時の涼風にさらりと揺れる。
柔らかい微笑みも、何もかもいつもと変わらない。
その様が綺麗だったが、今はそんな事も云ってられなかった。
俺は疲労でふらつく足を引きずり、ヤツの前へと歩み寄った。
「カラス、コレ……覚えあるか……………?」
「え……………?」
俺は新聞の記事をカラスに渡した。
「………で、轢き逃げ発生。死亡した中学三年生徒、宇津宮佳月……………」
カラスは其処まで読んで、黙り込んだ。
嘘だと、思いたかった。
宇津宮佳月…………つまり、カラスは、去年の夏に、轢き逃げで……………?
「どうなんだよカラス」
「涼斗………………」
「カラスッ…………」
カラスの手からするりと新聞紙が落ちた。
「……………僕だよ、涼斗」
「ッッ……………」
一番聞きたくない言葉が、カラスの口から紡がれた。
カラスの表情が、悲痛に歪む。
「部活の帰りだよ、死んじゃった。でも、逢おうって約束したから……………」
カラスは優しく微笑んだ。
「最期に、約束が守れて、良かった……………」
……………なんだよ、それ。
其処にいるのに。確かに今日、一緒に笹舟流したのに、死んでるって……………?