#02 研修旅行――初日-1
私の名前は佐倉萌。鐘状高校――私立鐘状学園高等部の一年生だ。
いわゆる、不良。飲酒喫煙校則違反なんでもござれの底抜けの不良だ。
けれども、そんな私の頭はいま、あるクラスメイトのことで一杯になっていた。
その男の名は岐島仙山。クラス一、いや……学校一の変人――、
「岐島。ちょっと、いいか?」
私は一年B組、自分のクラスの窓側最後尾の机の前に仁王立ちになる。
岐島の席だ。いつもの陰気ながらも無駄に整った能面顔で分厚いハードカーバーを読んでいるその席の主は面倒くさそうにその長い黒髪をかき上げると顔を上げた。
鋭い双眸が向けられる。
「……なんだい?」
「ああ。あの、な……その……ここじゃ、言いにくい……」
現在の時刻、朝のHR十五分前ほど。いつもならば私はもう少し遅く登校してくるのだが、今日は岐島とどうしても、ある話しをしたくて早く来たのだった。
しかし、その時間でも真面目な我がクラスメイト共は七割方登校してきており、ちらちらとコチラを見てきやがる。
うっぜぇ……。こっちが、その眼差しに返すとすぐにそむけるくせによ。
けど、まあ、話しの内容が内容なだけに気にはなってしまう。
一方、岐島はそんな好奇の視線などは一切感じないのか、首を傾げた。そして、仕方ないな、と言うようにわざわざ小さな溜息を吐くと読んでいたハードカーバーに付属する橙色の紐で栞を挟んだ。
そして、椅子を音が立たないように下げると立ち上がる。その女のような――というか、並みの女では太刀打ちできない――艶やかな黒髪が宙を優雅に舞った。
身長差のためだけではない、睥睨するような力強い眼差しを向けてくるとゆっくりと私に告げた。
「じゃ、行こうか」
国道側校舎屋上――コイツと初めてマトモな会話をしたのもココだった。
明後日には終業式、そのあとは晴れて夏休みだ。朝っぱらだというのにバカみたいな日差しが降り注いできた。