#02 研修旅行――初日-18
「……なぁ、岐島?」
私はスキットルを返しながら、その持ち主へと目を向けた。
「なんだい?」
「おまえ、母さんは死んでるのか?」
「ああ。昼間も言ったけど小四の時にね」
「んで、爺さんに引き取られた……と」
「それがね、祖父も二年ほど前に亡くなっている。今年の冬に三回忌がある」
「っ!?ってことは、おまえ……」
「俗にいう天涯孤独ってやつだね。いまは、鷺ノ宮さん――ほら、あの『パブリック・シークレッツ』のオーナー」
「ああ、はいはい。あのオジサンね」
「あの人が俺の後見人になっている。だから、学校のバイトの許可も簡単だった。なにせ、雇う人間と保護者が一緒なんだからね」
「うっわ……せこいな」
「そこまで、チェックはしないさ。学校側もね。俺は――」
「学業優秀だから、だろ?」
「正解。よく、わかったね」
「ははっ……ま、なんとなくな」
岐島の意外そうな顔に私は吹きだした。いつも、読まれている仕返しだ。
称賛の代わりなのか、スキットルを再び手渡される。
そこで私はもう一度、堪えきれず笑ったのだった。
……。一つ、疑問を抱いていた。けども、聞くに聞けない。
ヤツの父親の存在を、だ。
まあ、聞く機会ならいくらでもあるだろう、とその時は思っていた。
――明日のことなんて、誰にもわかりはしないのだ。