#02 研修旅行――初日-17
「バカじゃないのか!?」
「バカじゃない。何をするんだ、きみはいきなり……。発情期か?」
「女子へのセリフじゃねぇだろうが、ソレはッ!」
言いながらも二発目。けど、それも再び左手で止められてしまう。
「っと……いよいよ、情緒不安定だな。なにが不満なんだ?」
「うるせぇ!ソレだよ、ソレ!そのスキットルの中身だ!」
「キャプテンモルガンのゴールド・ラムだぞ?高くはないが、美味い。このモルガンっていうのは騎士受勲を受けた実在の海賊で――」
「知るかぁっ!」
三発目を放とうとして……止めた。
前二発の感じからして、きっと、この状況ではいくらやっても無意味だろう。
私が臨戦態勢を解いたのを確認して、岐島はスキットルの口にその薄い唇を付けた。
ほのかに甘い、いい匂いが嗅覚を刺激する。
「……おまえな。ヒトのことを言えないだろ、それじゃ」
「ヒトのこと?ああ、飲酒か?そんなものバレなきゃ良いんだ。どうだい、きみも?」
「林田と同室だからよ。アルコールの匂いが残ったら嫌だし……」
「ふん。万全だ」
岐島が愉快そうに微笑むと袖から何かを取り出した。見てみるとそれはパッションフルーツ味のデンタルガム(消臭効果付き)だった。
「くっ……ぷくく、あははっ……おまえ、バカじゃねぇの?」
「残念ながら、俺がバカだときみは目も当てれなくなってしまうだろう」
「コノヤロっ」
私は肘で岐島の脇を小突いた。
けども、まだ口元がにやけている自覚がある。やっぱり、なんだかんだでコイツはバカだと思った。
岐島からスキットルをひったくるようにして受け取る。
一口、口に含んでみると強烈なアルコールの刺激のあとに、さっき嗅いだ甘い香りが食堂から鼻腔へと駆け抜けていった。
これは……あれだ。確かにパッションフルーツっぽい。あと、バニラだ。
さて、もう一口。
なかなか、後味の良い酒だった。