#02 研修旅行――初日-12
「唯一、きみにできるのは彼を慰めることだけだけれども……。きみのような人間が言葉で慰めることはできないだろう」
「それは、どういう……」
「異性を慰める方法で最も手っ取り早く、有効なのは身体だろうね」
「からだっ?――」
直球ストレートを投げた岐島の前に林田は三振した。
耳まで真っ赤にさせて、口を半開きに硬直してしまっている。
岐島は嘲るように鼻で笑った。トドメを刺しにかかったのである。
「ふん。その程度もできないならば、きみは――きみの言葉を借りるならば『加害者』さ。そもそも、農耕民族であり、封建主義の唯一民族国家の日本において、戦後、その民族のアイデンティティーを取っ払われ、資本主義、民主主義、自由主義の概念を半強制的に学ばされた時点で、イジメは必ず起きてしまうんだよ。日本人は性別、出生、能力で自分や周囲の人間をランク付けていた。しかし、いきなり平等といわれ、一つの平らな面に揃わせられた。そこで、自己を保つために生み出したのがイジメ――つまり、その平面に窪みを作り、そこに少数派の他者を落とし、自分の優位性を悟る術が必要になったのさ。林田さんも相原さんも、自覚なくともそれで今まで自己を確立してきたんだ。よかったね」
そこまでいうと岐島は一息付こうと前の席の背もたれに指していたペットボトルのお茶を二口、喉に流し込んだ。
雌雄は決した。……K.O!ウィナー、岐島仙山。
いまの『自己の確立』メンバーに私が入っていなかったことは釈然としないモノを感じながらも、少しだけ嬉しかった。言い用のない連帯感のようなモノを覚えたのだ。
だから――、と岐島はショックで押し黙った林田から巨女、相原へと目線を戻し、続ける。
「相原さん。きみが気に病むことはない。あの状況下においてはきみもイジメの対象候補に十分、なり得たんだ。下らない偽善などに酔わず、保身に努めることを悪だとは俺には言えないよ」
「けどっ……そのせいで、岐島くんが……転校して、私、それでっ――」
「転校?俺が、イジメで?」
「そ、そう。私たちの、その……イジメで……」
「なんでまた、そんな出鱈目が……」
「ちっ――違うの?だって、十月の初めなんて中途半端な時期に転校、したから……」
岐島と相原、平均身長を優に超えるノッポの男女の視線が交錯し、互いに疑問符を浮かべていた。
そして、突如、岐島は吹きだした。