第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-8
――なんだ、この反応は?どこか、記憶にある…………、…………。ああ、分かった。
ケネスは脳裏に浮かんだ一つの回答に胸中だけで頷いた。
あれだ。うら若い少女がある程度以上の好感を持った異性へと見せる反応だ。
職業病の人間観察で学んだ確かな結論である。
ここでもう一押しすれば堕とせる、という状況だ。実際、ケネス自身もこのように少女を誘惑し――もちろん、変装してだ――、床上で情報を収集したこともあった。
――でも……マズイ、よなぁ……。
ケネスは頬を掻いた。
まぁ、ぶっちゃけ、この年代の娘は相手など誰でもいいのだ。ただ、自分の好みの容姿を持ち、自分に害しない異性ならば誰でも、だ。
本当はその『好意』を抱いている自分自身が一番、好きなのだから。
そして、ケネスにしても男女の倫理観は緩い方だ。エレナのような可愛らしい少女とヨロシクできるならば諸手を挙げたい。
本来ならば、だが……。
今回の件は訳が違う。相手は亡国とはいえ王女、しかも正当なる第一王女だ。
一方、自分は家名もない、しがない一平民。
さらにエレナは親愛なる上司殿の恋人殿の上司様だ――最悪、陰険なる『魔人』と栗色の髪の『聖騎士』に殺される!
ブルブルとケネスは身体を震わせた。
変装を解くと案外、自分も弱気な小市民なのだ。
「――あの、なにが良いか分からなかったので適当に幾つか持ってきたのですが……」
「ひぃっ!」
突然の呼びかけにケネスは跳び上がる。
バクつく心の臓を抑え、呼吸を整え、見ると銀か真鍮製のティーワゴンに数本の酒瓶と二杯のグラスを乗せたエレナの姿があった。
ケネスの目にはクリーム色のドレスを着た上品な少女ガがワゴンを押す姿は極めて異質に映る。
エレナが小さく顔を傾けた。