第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-31
「あの、大丈夫っすか?」
「んふふ〜……平気れすよ、ケネスさ〜ん……」
「あぁ……ダメだな、こりゃ」
「へ・い・き・で・すぅ!エレナは王族でしゅものぉー」
「いや、王族でも……酔いますよ?」
「平気なので、すぅ……。おろうさまも、じいもぉ……みんな、つかまったけろ〜、へいきれっすっ……よぉ……」
「っ!……。王女……」
ケネスは衝撃を受け、頬を指で撫でた。
ずっと、毅然と、のほほんとマイペースを貫いていたエレナだったが、現状が辛くないわけがないのだ。まだ、二十歳にも満たない少女なのだから……。
エレナは赤い顔を揺らし、健気に自身の名を呼ぶ声に返事を返す。
「はう、王女……れす。エレナはぁ……王女です、からぁ……ケネス、しゃまも……パスクしゃまもおちゅらい、のですからぁ……私、だって……」
「ええ。ですが、今日はもうお眠りになった方がいいんじゃないでしょうかね?明日も早いのでしょう?」
「……あい」
エレナは、ぼぉーっ、見つめてくるとこくんと首を縦に振った。
ケネスは「ふっ……」と小さく笑みを漏らす。
自分はパスクの部下だし、彼とともにいるのが大好きだ。でも、それと同じくらいに目の前で酔いつぶれる少女にも好感が持てた。
脆いくせに顔色変えずに踏ん張るところなど、どことなく、パスク似ていないこともない。
パスクは立ち上がるとエレナの横に膝を付いた。
「肩をお貸ししますよ、王女」
「は、ぅ……ケネス、しゃまはお優しいのれすね……」
「ええ。優しくしない理由がないですから」
ケネスの口からは自然とそんな台詞が漏れた。
その大きな眼を広げて驚いていたが、エレナはすぐに破顔するとケネスの肩に腕を回し、肩を借りる――フリをしてそっと唇を彼のそのこけた頬に押し付けてきた。
今度はケネスが驚く番だったが、しかし、まぁ……このくらいは役得だ――見逃してくれるだろう。
あの一途で薄幸で天才的で、そして心から愛すべく上司殿も――。