第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-30
「……なんでだ?」
「はい?」
「なんで、俺にそこまでする?パスクが俺を助ける理由なんてない。わざわざ、門出にケチをつけることなんてないんだ。そんな刹那的な欺瞞は止めといたほうが懸命だ」
ケネスはあえて強い口調になってみる。
盗賊の自分にだって誇りがある。もし、パスクに迷惑がかかったら自分は一生、後悔するに決まっているのだ。
だが、パスクは小さく首を傾げると――腹立たしいほどに愛らしい仕草だ――即答した。
「でも――だって、私がケネスさんを助けない理由がないじゃないですか」
「っ!」
「そうでしょう?私だって損害を無視して人助けなんてしませんよ。ただ、導師の助力さえ得られれば、私にはいっさいの損失はありませんでしょうし……。ですから、助けます。あの……いけませんか?」
「――んま、これが出会いですわ。この後、アイントベルグの旦那に力を貸してもらって、バインツ・ベイを出たんですがね、行く当てはない……。ってわけで旦那は俺を子飼いの便利屋として雇おう、と提案してきたんで、俺は飛びつきました。旦那は貴族にしておくにはもったいない気の良い人だったし、なによりパスクに力を貸したかったんでね。ソコから先は、まあ、ご存知の通り……」
ケネスはそこで口を閉ざした。
そして、テーブルを挟み、長々と昔話に付きあわせてしまったエレナ王女へと視線を向ける。
「ぅお……」
ケネスは、思わず呻いた。
エレナは真っ赤な顔で椅子に体重を預け、ふにゃふにゃとしている。見ると、テーブルの上には空き瓶が二本、転がっていた。
もちろん、始終、口を開いていたケネスにこれほどの量の酒を呑んだ覚えなどはない。