第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-29
「まず、腹ごなししましょう!すべてはソレから――です!」
「お、おう……」
ケネスはパスクの目力に押され、素直に林檎を受け取ると袖で拭き、齧る。
強烈な酸味とほのかな甘みが飢えた舌を悦ばせた。
「それで、です。ケネスさんは――あっ、食べながらで結構ですよ?ケネスさんはこの街を出たいんですよね?」
「ん、ぐ……。…………。ああ。ただ、門がなぁ」
「なら、大丈夫です。あと半日待ってください。私も明日、この町を出ます――といってもすぐソコの『賢者の律令』にですけれど……」
「は?……ああ、入学できるのか?」
「はい。アイントベルグ導師が転入手続きをしてくださいまして、授業料も寮費も持ってくれると……」
「そりゃ、おめでとう。でも、この荷物は?店のお遣いだろう?」
「だって、今日までは『セイレーンの幻想歌』の店員ですから。オーナーには女装はさせられましたが、良くして頂きましたし、最後の奉公ですっ」
ケネスは林檎の芯を咥えながら、密かに感心した。
『賢者の律令』への転入など、普通ならば考えられないような厚遇だ。エリート街道の一歩目だ。にもかかわらず、ソレまでと同じ態度で居続けることは口でいうよりも難しいことなのである。
「――それで、ついでにケネスさんの通行手形も導師に頼めば簡単なんじゃないか、と……」
パスクは、今度は干し肉を取り出し、削りながら言ってくる。
その言葉にケネスは肩眉を上げ、パスクを見つめた。