第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-25
「ったく、しぶといねぇ。これだけ人死が起きて生き残るなんて悪運の良い……。マスターは?」
「…………。こいつら――下にあと三人、死体になっているけどよ――マスターの部屋に潜んでいた。外出中――だったわけはないか……」
「ああ、いたよ。今日も朝から、いつもと、同じように、ずっとね……」
スキュラは続く階段へと視線を向け、区切り区切りに漏らした。
紅を塗ったその唇を強く噛み、瞳はフルフルと少女のように震えている。
スキュラはマスターの愛妾なのだと、まことしやかに噂されていたことをケネスは思い出した。自分だって、父のように、兄のように慕っていた相手だ、その死は身が裂かれるように苦しい。
しかし、年の功か、はたまた、そうすることで普段の冷静さを取り戻そうとしているのか、スキュラが声色をいつものように鋭くさせるとケネスへ視線を戻した。
「相手は?」
「十中八九、盗賊」
「ふぅん。私ゃ、そこの行商市をブラリとしてきただけなんだけどね……。この手際のよさは内部――帝国内のギルドか」
「っ!身内!?」
「ははっ、なにを今更……。あんただって、マスターの出世のためにいろいろしてきただろうに……」
「だけどっ……皆殺しに――堅気の、娼婦たちまで皆殺しにすることはなかったっ!」
「そりゃ、あの人は穏健派。んま、スリだ、盗人だっていう盗賊だからね。ギルドの中には強盗や軍隊上がりの無茶な一派もいるのさ」
「だからって、こんなことを――」
「いい加減におしよ。これが帝国内の盗賊ギルドの仕業なら、このあと、どうなるかは知ってるだろう?」