第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-24
――最悪だ。腕はまだしも、足の怪我は致命的。しかも、相手は未知の戦闘技術を有しているとはな。
ケネスは流血とは別の要因で顔面から血の気が引いたのを自覚する。
もちろん、相手もコチラの負傷は把握しているのだ、だらんと腕を下げた独特の姿勢で構えていた。
手首を小さく振ると袖から、例の投擲武器が姿を現す。
手元にはすでに鈎針だけで、武器らしい武器などは残っていない。
それでも、なんとか勝機を見出そうとケネスは考えを巡らせるが、解答を導き出すずっと前に敵は手中の武器を放とうと肘を小さく曲げた。
――やられるっ!
ケネスがそう覚悟し、最後の反抗と敵をにらみつけた。
しかし、いくら待っても敵は投擲のモーションのまま固まっており、自身の最期の瞬間は訪れない。
「……。……?」
ケネスがいよいよ疑問符を浮かべたその時、敵の暗殺者の身体が大きく傾いた。
身構えたケネスだったが、だが、敵はそのまま床に身を沈め、動かなくなる。
恐る恐ると擦り寄るケネス。すると、その背中には目を凝らさなければ見えないほど細く、長い針が刺さっていた。この倒れ方からして、先端に毒でも仕込まれていたのだろう。
だが……もしかしたら、この相手自身、攻撃を受けたことを理解できていなかったかもしれない。
「これは……、一体?」
「――ギリギリだったね、クソガキ。どうだい?死ぬ間際ってのは一番、生を実感したろう?」
「ば、ばあ様っ?」
ケネスは気配もなくかけられた声に驚いて、身を強張らせたが、声の主を視界に捉えると安堵と先よりもさらに激しい驚愕を混じらせた声を上げる。
この館の主――スキュラが娼館側の入り口の扉に背を預け、立っていた。
呆れたように、そして、どこか嬉しそうにスキュラは続ける。