第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-22
「……ぅっ」
再び、駆け出しながらもケネスは後方を一瞥する。先頭を走っていた暗殺者の喉下――というか鎖骨の上辺りに深々とナイフは突き刺さった。致命傷だ。
しかし、さして期待はしていなかったものの暗殺者どもは仲間の死には微塵も動揺は見せなかった。そういう訓練を積んでいるか、または彼ら自身初対面か、どちらかだ。
ケネスは小さく舌打ちをすると再度、ナイフを投げる。
一度、フェイントもいれたこともあり、さらに一人の暗殺者の命を奪うことができた。
そこでようやく、地上への階段の入り口にたどり着けた。
一気に駆け上がる――フリをする。
五歩ほど駆け上った直後にそのまま、背後に跳んだ。
丁度、暗殺者の一人目が階段の一段目に足を掛けようとしているところだった。ケネスは懐から鈎針を取り出すと空中で一本を投げつけ、着地と同時にさらにもう一本投げ、最後に接敵し、直に穿つ。
敵は一本目を叩き落としたが、角度の違う二本目には反応が遅れ、バランスを崩していた。
ケネスは鈎針を敵の心臓部に刺した。が、なにか着込んでいたようで胸板に沿って滑ってしまう。
仕方なく、さらにもう一本の鈎針を、今度は装甲のできな部分――眼球へと捻じ込んだ。
「ぃ、ぎゃぁあぁぁっ!?」
さすがに今度は悲鳴をあげた。
指の感覚からして脳内まで鈎針は到達している。どんなに訓練したところで、耐え難い痛みだろう。
――だが、それも俺の仲間にだした手を出したんだ、甘んじて受け入れてもらおう。
ケネスはその全身を痙攣させる男を蹴飛ばし、その後方の二人まで数を減らした暗殺者の進路を妨害しようとした。
しかし、敵は仲間の躯を切り裂いた。そう、真っ二つに。
限りなく研いだ剣だろうともそんな綺麗に人体を分かてるものではない。
魔法剣か、魔導師か……。いや、魔法剣だろう。
ケネスは確信めいたものを感じる。老練のアッシュを殺したのはコイツだ。
今度こそ、本当に階段を全力で駆け上がった。
途中、後方から何度か投擲武器で狙われたが、ソレも屈み、跳ね、かわす。
いつもはあっという間に感じる階段がやけに長く感じたが、それでも無事に上りきった。