第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-21
――相手は複数。最低でも五人。内、手練が二人、か。
激情する胸中の極めて冷静な部分で敵の戦力を分析する。
もう、ここを立ち去っただろうか?それとも、この下にいるだろうか?
……。どっちでも良い。いなければ探し出す。いれば、殺す。
ケネスは息を殺し、足音を殺し、気配を殺した。
階段をまるで、日が沈むように着実に下っていく。
マスターの部屋の前まで来た。
常駐していた仲間の躯を四人見つけた。ケネスはすでに怒りを完全に鎮めている。
殺る時までに取っておくのだ。敵を見つけたら、一気に燃え滾らせる。
扉に手を掛け、取っ手を回し、押した。
滑らかに開いたその扉の先は闇だった。普段、マスターが留守の時にすら付いている魔導照明が消されている。
ケネスは近場にあった机の上から蜜壺を手に取り、投げ入れた。
陶器製のソレは派手な音を鳴らし、床に墨を撒き散らした。
室内からは何の反応もない。
ケネスは神経を針の先よりもさらに鋭く尖らせると一歩、室内へと歩を進めた。
ヒュッ!
「ッ?」
ケネスは一気に身を引いた。闇の中から、ナイフを握った、長い腕が追ってくる。
それもさらに二歩、後退することでかわした。
マスターの部屋から五人の黒装束が飛び出してくる。つま先から頭頂までが真っ黒。ご丁寧にナイフの刃は反射防止用に黒く塗られていた。
暗殺者だ。盗賊ギルド――その中でも高いレベルの暗殺者。
ケネスは敵の正体を察知したのと同時に来た道を駆け戻った。
そんなに広くはない室内で五対一……敗北は必至だ。
当然、相手も逃走を見逃してくれるわけもなく、追ってくる。しかし、それすらもケネスの予想の内だ。
背後の敵の気配に向かって振り向きざまにナイフを投げつけた。
繰り返す、広くはない室内だ。なんの前触れもなく、高速で飛来するナイフを避けることは適わない。