第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-20
それから、一週間と少しが過ぎた。
二日前、アイントベルグ導師が来客したので、独学の魔道を披露したところ、たいそう驚いていたとパスクから報告を受けた。
ケネスはその時のパスクの笑顔を思い出し、にやりと口角を歪める。
きっと、今頃、その導師とやらは学院に掛け合っていることだろう。
クツクツと独り笑うとケネスは件の盗賊ギルドの隠れ家となっている娼館の前に立った。
――瞬間、背筋にうすら寒いモノが走った。
コレは……血の匂い。そして、死の匂いだ。
一人や二人のもではない!
ケネスは一度、手を掛けていた扉の取っ手から手を離し、手持ちの武器を確認する。
ナイフが二本、小剣が一本、鈎針が七本。実に心もとないが、自身の身を護るだけならば、何とかはなる。
そのように計算結果を弾きだしたケネスはすぅっ、と息を呑んだ。
胸いっぱいに空気を溜めると扉をそぉっと開く。
蝶番が気味の悪い音――きっと、そう感じるだけなのだろうが、錆を軋ませた。
時刻は昼前。通りには休憩する職人や商人たちが溢れ出し、娼館としても昼前に入港してきた商船の乗組員相手に掻き入れ時なのにも関わらず、内からはなんの接客文句も言ってこない。
覗くと、屋内は薄暗かった。昼間の照明である。
ケネスはいよいよ、予感を確信へと変えた。一通り、目を配ってみたが、人の気配はない。
安堵共に、最低の気分にも陥った。この館に詰めていた人間がどうなったか、考えを巡らせてしまったからだ。
彼女たちは借金や、ギルドに入ることのできなかった孤児など、様々な理由で働いていた。中にはケネスが相手してもらったことのある者もいたし、嫌な者もいたが……決して死んで嬉しい人間などはいなかったのだ!
脳髄に火が巡った。復讐の火だ。
ケネスは胸に溜めた息を吐き出した。地下へと続く間へとゆっくりと進む。
やはり、なんの気配もない。しかし、そこには二つの躯が転がっていた。
「アッシュ、クロニカ……」
黒髪の中年と金色の髪をした色白の青年だ。
二人共ギルドのメンバーであり、ギルドの出入り口を護るほど優秀な盗賊であり、戦士であった。
アッシュは両手、胸、脇腹と無数の傷が残っていた。
まだ、若きクロニカは喉を一突き、あとはかすり傷しか追っていない。