第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-2
「――あら?これはケネスさん。お一人なので?」
「いっ?……ああ、これは王女様。ええ、お一人ですよ〜」
そんなことを考えながら大人が縦に五人は横になれるのではというほどの――もちろん、そんな恐れ多いことをする馬鹿はいないだろうが――廊下の角を曲がると、二人の少女と鉢合わせた。
話しかけてきた方はエレナ・V・リンクス。亡国リンクスの第一王女だ。現在、帝国に囚われていないリンクス王族は彼女だけだ。
少しクセのある薄紫色の頭髪を首の下くらいで纏め、白い肌に大きな瞳が印象的な美少女である。もし、機会があるのならば、お相手願いたい身体付きでもあった。
――キンッ!
「…………。あはっ」
いささか下品な(されど、正直な)心情を察したのか、はたまた、ただ単に物言いが気に入らなかったのか、エレナの隣に立つ黒髪の少女が腰に差した短剣の鍔を鳴らしてきた。
ギョッとなり、反射的に背中側へ体重を移動させたケネスは、いつでも逃げ出せるように警戒しながらも愛想笑いを浮かべてみる。
すると、「ふんっ」と鼻を鳴らし、黒髪の少女は柄から手を離した。
この、いささか乱暴な少女の名はフィル・R・ペガスス――ペガスス建国王『聖人』ラインベルトの血を引く、現『ペガススの聖女』だ。つまり、我らの大将と同じ立場なのだが、産まれ育ちはそれこそ月とすっぽんである。
ただ、容姿は似ていないこともない。髪の色こそ違えども針金のような艶やかさは同じだし、聡明さを思わせる切れ長の双眸などそっくりだ。肌も白く、鼻梁は高く通り、唇は血の気がなく冷たい印象を受ける。そこまで一緒だ。
『聖人』だから似たのか、たまたま、そっくりさんなだけか……。
まぁ、相手がどうかは置いておいて、ケネスは勝手にフィル王女殿には親近感を覚えていた。
フィルが――少なくとも親近感は微塵も覚えていない口調で――刺すような眼差しで口を開いてくる。