第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-18
「わ、悪ぃ……。んなに、驚くとは思わなくてな」
「いっ、いえいえ!私こそ――こっそりとお客様の忘れ物で、こんなことを……」
パスクが頬を高潮させて、頭を掻いた。
その台詞にケネスは引っかかる。
「ん?待て、パスク。忘れ物だと?」
「はい。『賢者の律令』のベルゼル・アイントベルク導師のお忘れ物でして……。本当はいけないんですよ、お客様の忘れ物をいじったりするのは。でも、休憩中に気になって、こう、横目で見ているうちに――で、でも、導師も二週間もお越しにならないんですっ!」
最後になんだかよくわからない言い訳すると再び、パスクは俯いてしまった。
しかし――、ケネスはそんな女装少年を見つめる。
――いま、彼が行ったのは紛れもなく『魔法』の奇跡。先天的な魔力と、術式の理解力と、類稀なる修練を必要とするのだ、奇跡という言葉がしっくりくる。
それを、パスクは……行使したのか?独学でっ?
ケネスは心底、驚いた。この街で育ったのだ、魔導学院の生徒も何千人も見てきている。
中には帝国の上層部に入った者もいるし、中には道半ばで挫折した者もいる。しかし、それも総じて、高位の導師の下で正しい学習を行った結果であった。
こんな、独学で、話しからすると二週間も経たずに発動まで扱ぎつける――そんな人間がいるのか?
「あ、あの……」
黙りこくった自分に不安を覚えたのか、パスクが上目遣いで恐る恐ると見上げてきた。
ケネスは直後、吹きだした。
「くっ!くくくっ――マジかっ?すげぇよ。すげぇすげぇ……ははははっ!」
「……?はい?」