第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-17
――あと、もう一つ。きっと、俺くらいしか知らないだろうが、パスク……ヤツは男だ。最近、気が付いた。そうして思い返してみると確かにパスクは一度も自分が女だとは言っていないし、仕事ぶりも男女の中でも群を抜いて良い。
あの店のオーナーがやらせているのだろうが、一人称は『私』、制服も女性用の葡萄色のヒラヒラしたヤツを着て、薄化粧までしているから気付けというほうがムリあるか……。
そんな少女――改め、少年が店の裏手で一人、唸っている。
左手には分厚い書物、右手には棒っきれを握っていた。
何をしているんだ?とケネスが身を乗り出した瞬間だった、その木の棒の先端から光が奔流と化して溢れ出してきた。
薄暗い路地での、その圧倒的な光量に思わず、目を瞑るケネス。
瞼越しに網膜を焼いていた光はすぐにフッと消えた。
ケネスは怖々と右目を開ける。いきなり両目を開けないのは盗賊のクセみたいなものだ。
「ぁ……できた、できたっ!うん。やっぱり、これで良かったんだ!」
見るとパスクが跳ねて歓声を上げている。
裾の長いスカートと頭髪がフワリフワリと揺れ、真実を知っているケネスでさえ、ただの少女にしか見えなかった。
ケネスは一瞬、呆けた自分を刹那に戒め、首を左右に振ると声をかけてみる。
「……今のは、魔法、か?」
「ぅひゃあぁっ!?」
返ってきたのは悲鳴だった。
自分の声に反応し、パスクが肩をビクリッと跳ね上げ、ぎこちなく振り向いたためにスカートの裾を踏んでしまい、こけてしまったのだ。
ケネスは慌てて、手を貸して立たせてやる。