第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-14
「ええ。そりゃ、知らなきゃバインツ・ベイの生まれが嘘になる」
「あそこにな、二月ほど前から新しい娘が入ったんだ。齢は十五くらいなんだが、器量も気立ても良い娘だぞ。行ってみるといい」
「……。つかぬ事をお聞きしますが、マスター……行ったんすか?」
「行ったもなにも、ここのところ超常連だ。ウチの連中だけじゃなく、商業ギルドの奴らや、魔導学院のガキどもまでがひっきりなしにやってきて、大繁盛。看板娘一人であれだけ変わるものなんだな。うん?おお、そうだ!」
マスターが、これはもう名案に違いないといったドヤ顔で手を打った。
背筋にうすら寒いものを感じながらもケネスはおそるおそる、続く言葉を待つ。
「お前、変装が上手かったな?どうだ?いっちょ、女装して上の店にでも――」
「マスターッ!提案があります!」
「ん?なんだ?」
「一遍、死んだ方がいいと思う!」
……、……。ああ、危なかった。
丸腰と思いきや、マスター、袖の中に二十本以上ものナイフを隠しているとは侮り難し。
ケネスは三ヵ月後の上納日にはマスターがボケて、忘れてくれていることを願いつつ、バインツ・ベイの繁華街を堂々と歩いていく。
先とは違い、万が一、懐の中を掏られても取られるのは汚い銭入れとルーデル帝金貨が六枚。一仕事の稼ぎの端数にも満たない、はした金だ。
――しかし、まあ、我らがギルドの性根の捻じ曲がったくそったれどもを骨抜きにする嬢ちゃんか。一見の価値はあるな。
そう、胸中で独りごちたケネスの足の向かう先は決まった。