第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-13
「あのな、ダレ公。ただ、他人の懐を漁るだけなら誰でもできんだ。俺たちゃ、盗賊だ。いわば、こっち側の世界の中心でなけりゃいけねぇ……」
ダレ公――幼いときの愛称だった。ダリクルスがこのギルドから初めて貰った宝物だ。
――まあ、マスターの言いたいことは分かる。アフターケアも万全か?ということだ。
「分かってますって。上でも言われましたよ、ばあ様にね。今回の相手はノルヴィクトの田舎貴族――キルヒホッフ子爵です。盗んだのは刀剣に宝飾品、金細工の仮面、ついでに酒を少々……。詳しいことは中のリストで確認してくだせぇ」
「キルヒホッフ……聞いたこともねぇ。まあ、平気か?」
「ええ、それはもうっ」
「分かった。下がっていいぞ」
「あいさ。では、また四半年後――」
ケネスは踵を返すと右手の人差し指を肩越しに左右に振って見せた。
マスターが呆れたように、それでいてどこか楽しそうに溜息をついたのを背中で感じる。見てはいないが、気配のようなモノだ。
「んっ、ああ……ダレ公!」
「……?はい?」
ケネスが出入り口の取っ手に手をかけたとき、マスターが突如、声をかけてきた。
それは、不意に思い出したような呼びかけである。――もう、齢なんだ、ボケだしたのだろう。
「お前……いま、ド失礼なことを考えていただろう?」
「いっ――いえいえ、んなわけ(ありますが)……。で、なんでしょう?」
「じっくりと話してぇところだがな……。『セイレーンの幻想歌』――知っているだろ?」