第二話〔続〕――密偵と王女と女装少年-12
「んなこと言ってないでしょうが……」
「い〜や!言わなくても思ったね、いま」
「んな、滅茶苦茶な……」
「まあ、冗談じゃなく……。ヤバイのに手は出してないでしょうね?例えば、帝国――」
「ええ、ええ。平気ですとも。手を出すとしても精々、田舎貴族。帝国中枢には指一本、触れはしませんよ」
「なら、良いんだけどね。国相手にゃ、庇いれないよ」
「分かってますよ〜」
ケネスはヒラヒラと手を振って、扉の奥へと身を滑らせた。
やはり、中身はババアだ。小言が好きなのだろう。
「――ふん。大した額だな?」
「そりゃあ、もう。オヤッさんの直伝――万に一つのしくじりゃしませんよ」
娼館の地下。バインツ・ベイ一帯を仕切る盗賊ギルドの本部である。
一般的に盗賊ギルドなどというと淡いランプだけの暗がりで、小声で密談してるようなイメージがあるが、それは間違いだ。
盗賊ギルドも上の方はそこらの商人と変わりはない。大きな部屋に豪華絢爛な調度品、足首辺りまで埋まるカーペットの先には四隅に馬の彫刻のされた樫机と同じく樫製の椅子。部屋の隅には酒瓶を並べた棚があり、出入り口には秘書用の机もある地下にも関わらず煌々とした明るい室内だ。
そんな部屋の主は灰色の髭をまるで雄獅子のように生やし、整えた五十過ぎの男である。
もともとはケネスと同じ身の上。そこから帝国盗賊ギルドのナンバー3にまで成り上がったのだから、凄腕の盗賊であるのは言うまでもない。
さらには権謀術数にも長け、一時期はケネスもその手足となって帝国中を駆け巡ったものだ。
そんなギルドマスター、ハインツ・ゴーブルはケネスの納めた金貨宝石を数え終え、溜息混じりに言ったのだった。