触れるココロ-1
それから数日、カイキは湯来の喫茶店をバイトとして手伝い、夜たまに明希が顔を出す。そんな日が続いた。夕食時を過ぎ、店が落ち着いた頃、湯来がカイキにメモと一冊の本を差し出した。
「?」
「明希ちゃんに渡して来てくれない? 今日来ないって言ってたんだけど。これ、前から読みたいって言ってた本がお客さんから返ってきたの。楽しみにしてたから、渡してきてあげてくれない?」
なんでまた、急に……。そう思うものの、お世話になっている以上は何も言えず、大人しくそれを受け取る。
「地図、そのメモに書いてるからね。今から行けば会えるから。カイキくん、そのままあがってくれていいからね」
エプロンを脱ぎ、湯来から受け取ったメモを見る。
「…………行ってきます」
渋々店を出、地図通りに歩く。
よく考えれば、あの店に住み込みで働き出してから、カイキは初めて街をまともに歩いた。街を行き交うのは会社帰りのサラリーマンとその数が圧倒的な若い男女。
時間的にもまだ深夜にもなってはいないけど、その格好と若さから、自分とそんなに年が変わらないだろうと思う。そして、明希が言っていたのはこのことなのかと思う。
あまり周りを気にしないように足早に歩き、目的地に向かった。
然程遠くもなく、辿り着いたのは、とある高校の門。学校って、高校……?
そこでぼんやりと待っていると、人が疎らに門から出てきた。スーツを着た初老の男性や若い作業着の男、中には同じくらいの若い男女が十数人。
それでも、明希の姿は見えない。
「お兄さん。誰待ってるの?」
急に声を掛けられ、その方向を向けば、そこに居たのは二人組の女の子。年はそんなに変わらないだろう娘達は濃い目のメイクを施し、派手な服装。