果たせなかった約束-1
…ガガガガッ!
「クソっ!
アイツ等、全く容赦しねぇぜっ!!」
壊れた建物。辛うじて残った壁の後ろに身を潜め、弾幕をやり過ごす。
《こりゃ、最悪だな…》
…ガガガガッ!
…ドウンッ!!
…バンバンッ!
一向に止まない銃声と爆撃音。こんな毎日の繰り返しに、イイ加減疲れてきた。
《さぁて…
これからどうする?》
そんな事を考えながら、おもむろにタバコを一本取り出した…
−20XX年、大国の大統領が発言した『悪の枢軸』。それが現実となった瞬間だった。
ある社会主義国家から発射された大陸弾道ミサイル。その先端には『核』が搭載されていた。
大打撃を受けながら、国の威信を賭けての反撃。そこから始まった戦争。近代兵器と圧倒的な人海戦術で追込みをかける大国に対し、旧日本兵の様な特攻で立ち向かう社会主義国家。
戦火は拡大の一途を辿り、隣国や先進諸国までも巻き込む形になった。
そして始まった大戦。
人間は、何度愚かな事を繰り返せば気が済むのか。答えの出ない質問を反芻しながら、俺は傭兵として戦場に身を投げ出していた…
−《止まったか…?》
辺りに不穏な静けさが漂う。今回も命を拾った様だ。
《とりあえずは部隊に戻って報告だな。》
…カキンッ!
そう思いながらタバコに火を点けた。
「さて…」
地べたに腰を下ろしたまま、壊れた壁から辺りを覗く。空の薬筺が腐る程転がっている地面。そして、蜂の巣になった壁。それ以外は全く変わらない風景。
《よし、大丈夫みたいだな。》
さっきまで嵐の様に弾丸が飛びかっていたのが嘘の様な静けさ。
俺は警戒しながら、部隊のあるキャンプ地へと戻る事にした。
…バンッ!
…ビスッ!!
「うがっ!!」
いきなりの銃声。そして、太ももに命中した一発の弾丸。まだ敵兵がいた。油断していたワケではない。明らかに待ち伏せられていた。
「がっ!!くそっ…!こんなとこで…」
激痛に顔をしかめる。しかしすぐさまたちあがり、足をひきずりながらその場から立ち去ろうとした。だが、それは無駄な行為に終わる。
…チャキッ!
「動くなっ!」
10m程離れた場所から響いた女の声。
「残念だったわね。」
…ザッザッザッ
銃を構えながら俺に近づいてくる女性兵士。そして、銃口が頭に突き付けられる。
「貴様…同盟側かっ!?」
「ええ、そうよ。あなたは連合軍でしょ?」
「そうだっ!殺すならひと思いにやれっ!!」
覚悟を決め、目を閉じる俺。しかし、予想外の行動を女性兵士が取った。
…チャッ!
「殺さないわ。だって、私と同じ国でしょ?」
俺の母国語でそう語り、銃をしまう彼女。そして、俺を抱えて近くの壊れた建物内に連れていった…
−「痛てっ!!」
「我慢しなさいよ。男でしょ!」
射たれた傷口から弾丸を取り出し、消毒する彼女。
「これでOKよっ!」
包帯を巻きながら、笑顔で言った。
連合軍と同盟軍。敵対する兵士同士、しかも戦場で傷の手当てをしている状態。本来なら考えられない事だ。
しかしそんな事など、どうでもよかった。一人の人間として、どうしても聞きたかった事があった。
「なぁ。なぜ俺が同じ国だと分かった?お互い、英語で話してたんだぞ。」
質問をぶつける俺。それに対し、微笑みを浮かべながら、答えが返ってきた。
「匂い…かな?同じ国の匂いって言うのかな…とにかく、同じ匂いがしたから。」
漠然としているが、何となく分かる。そんな感じだった。
俺も殺伐とした空気に慣れ、大切な『何か』を忘れかけていた。彼女は俺に、その『何か』を感じたから助けてくれたのだろう。そんな気がしてならい。