真知子・ふたたび-1
(…助けて下さい)
私は神に祈った。これまで宗教を信じたことはない。それでも祈った。
大切な妹が、今、死と戦っている。自分自身…そして、お腹の中にいる赤ん坊の命を守るために。
無力な私は手術室の前で、ただひたすら祈るしかない。
(真知子、頼む…オレをおいていかないでくれ!)
両親を早くに亡くした私と真知子は、これまで、兄妹ふたりで寄り添うようにして暮らしてきた。
ある程度の資産を親が残してくれたので、生活に困窮することはないが、病気がちの妹は一年のうち半分は外出もままならず、部屋の中で寝たきりの状態が続いた。
医者をいろいろ変えても妹の病気の原因ははっきりしなかった。普通に生活ができるときもあるのだが、周期的に高熱を発して寝込んでしまうのだ。
お手伝いさんを雇ってはいるが、妹が寝込んだときはできるだけ自分もそばにいて介抱をした。
私は、4つ違いの実の妹…真知子を心から愛していた。
ガールフレンドと呼べる女ができることはあった。だが、セックスの対象になるだけで長続きはしない。世間の女どもには興味がないのだ。私には真知子さえいてくれれば良い
大学の卒業を来年に控えているが、就職するつもりはなかった。幸いIT関係が得意なので、なんとか在宅で仕事ができるようにするつもりである。
一生、真知子のそばにいる。…そう決めたのだ。
「お兄ちゃん。…お兄ちゃん、ちょっときてほしいの」
夜もふけた頃になって、妹が私を呼んだ。
その日の昼過ぎ、真知子がこれまでにないほどの高熱を出したので、慌てて医者を呼び出した。処方を終えて医者が帰った後も、もの凄い汗をかき続け、夕方までお手伝いさんとふたり、真知子の身体をタオルで拭いたり、着替えをさせたりして大変だったのだ。
「どうした?…また熱がぶり返したのか?」
妹の部屋のふすまを開けると、真知子は布団の上に座っていた。
「まだ寝てなきゃだめだろう。…ほら」
手を貸して寝させようとしたが、妹はかぶりを振った。
「うぅん、今はまったく熱はないの。大丈夫よ。……でしょ?」
真知子は自分の額に私の手を持っていった。…確かに熱は引いたようだ。
私の手を握ったまま、妹はその手を膝の上に置いた。
思い詰めたような表情をしている。
「お兄ちゃん、お願いがあるの。…聞いてね、私の一生のお願い」
潤んだ瞳でじっと見詰められて、私はどぎまぎする。